はいたつ、はいたつ。

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 ***  最後の一つは、成人男性の俺でも運ぶのに苦労しそうな大きな荷物である。やっぱり、エレベーターでは運べそうにない。俺はえっちらおっちら、息を切らしつつ階段を使うしかないのだった。なるべく壊れそうな手すりに触れないように気を付けながら。  最後の目的地は、504号室。  今度の段ボールは大きさも重さもかなりのものである。階段で運ぶのはかなりの重労働だった。そもそもエレベーターで運んだところで、あのエレベーターとこの狭い通路では台車を使うのも困難だったことだろう。 ――何で、さっきの人たちはみんな口をそろえて、中身を見てないかどうかを気にするんだ?  しかもさっきの老人は見られていることを恐れているというより、見てないことを残念だと言うような口ぶりだった。そんなに変なものでも注文しているのだろうか。俺はつい、今運んでいる荷物の中身が気になってしまう。  ガムテープできっちりと蓋がされているので、中身を見るためにはこれを剥がすしかないだろう。そんなことをしてバレないとは思えない。というか、常識的にアウトだろう。俺はプロの配達員なのだから、そんなこと絶対ダメだと言い聞かせる。  言い聞かせるのだが、興味は持ってしまう。  ガムテープを剥がすのではなく、スキマからちょっと覗くくらいはできないだろうか。特に今回の荷物は、ややガムテープが緩めに貼られているようだ。少しだけ蓋を持ち上げればなんとか、なんて思わなくもない。 ――い、いやいやいやいや!何を考えてるんだ俺は!そんなこと絶対ダメだろうが!  504号室の、加藤さん宅へ。  インターフォンを鳴らすと、ばたばたばたばた、と走るような音がした。え、と俺は思う。その軽い足音は大人のものではない。 「こんにちは!」  案の定、顔を出したのは小さな男の子だった。まだ小学校に上がったか上がってないかくらいだろう。くりくりの大きな目に、さらさらの黒髪が綺麗な可愛らしい男の子である。彼は日焼け知らずの真っ白な顔で、元気に挨拶をしてくれた。純粋にかわいい。かわいい、が心配になってくる。子供が起きているべき時間ではない。 「え、えっと……シロイヌ宅急便ですが。お父さんとお母さんは?」 「はんこ」 「え?」 「はんこ、おすんでしょ?ボクもってるよ。おにもつ、げんかんにおいて!」 「は、はい……」
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