はいたつ、はいたつ。

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 押し切られるような形でハンコを貰うと、俺は家に入れて貰った。玄関口に荷物を置いたところで、ドアを押さえている男の子が舌ったらずな声で言うのである。 「ねえ、おじさん。はこのなかみ、みた?」  またこの質問だ。このマンションの住人達は一体何を考えているのだろう。こんな少年に尋ねても仕方ないけれど、と振り返ろうとしたときだ。  がさがさがさがさ。  何かが蠢くような音がした。え、と俺は目を見開く。  動いているのだ。たった今、俺が玄関に置いた大きな荷物が。子供がすっぽり入れそうなくらいの荷物が。  がさがさがさがさがさがさがさ。  がさがさがさがさがさがさがさ。  がさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさ――。  明らかに、中に何かが入っている。  しかも動きが不規則だ。ならば入っているのは機械の類などではなく。 「ねえ、おじさん、なかみみた?みてない?みてないなら、みてみる?」  少年が、箱に駆け寄っていく。そして、箱のガムテープにそっと指をかけた。  俺はそこで息を呑むことになるのである。  がさがさと聞こえる音の中に――微かに。人のうめき声のようなものが混じっているということに。  少年がテープを剥がそうと、爪を立てて――。 「う、うわあああああああああああああああああああああああ!!」  俺は慌てて504号室を飛び出していたのだった。あれを見てはいけないと、本能がそう警鐘を鳴らしたのである。  そのまま階段を駆け寄り、アパートを飛び出し、トラックへ乗り込んだ。荷台をきちんと閉めたかどうかもよく覚えていないまま、焦るようにエンジンをかけたのである。  そこから先の、記憶がない。気づけば俺は、自宅のベッドで眠っていて、しかも朝になっていたのだから。
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