第3話

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 さっきは、顔を見られてヤバいって思ったけど、よく考えたら、中条はリンスタをやっていないからmiccoのことは知らないんじゃないか?  それを思い出した俺は、保健室に着く頃には胸のドキドキが治まってきた。  掴まれた手首は、熱いままだけど。 「先生! 手当お願いします!」  突進するかの勢いでドアを開けられた先生は、目を丸くしてこちらを見た。 「血も止まってるし、傷も浅いからこれで大丈夫よ」 「ありがとうございます」 「先生、傷跡、残りますか?」  そう聞いたのは、俺じゃなくて中条だ。 「多分残らないかな」 「多分って、なんか不安なんですけど」 「いや、俺男だし、傷跡残ったとしても慰謝料請求したりしないから安心して」  中条が何をそんなに不安に思っているのかは知らないが、俺は思いつく限りの言葉を伝えておく。 「俺が嫌なんだよ」  冗談のつもりで言ったのだが、伝わらなかったみたいだ。 「だっ、大丈夫よ中条くん! 縫うわけでもないし、残らない! うん、残らないわよ」  そのあまりの落ち込みぶりに慌てた保健室の先生が両手を顔の前でぶんぶんと振る。  イケメン中条、保健室の先生も攻略完了っと。 「……なら良いんだけど……」 「あ、じゃ、じゃぁ、俺はもう帰りますね。先生ありがとうございました」 「お大事にねー」  鞄を持って保健室を後にすれば、俺に続いて中条も着いてきた。  後ろで、はぁ、と盛大なため息を吐かれて、俺は反応に困る。  それは、安心からのため息なのか、大したことがないとわかって時間を無駄にしたことへのため息か。  きっと後者だ。  昼休みに今日の放課後カラオケに行くと約束してたじゃないか。  まぁ、だとしても、俺のせいじゃないからな。  何度も先に帰っていいと言ったのに帰らなかったのは中条だ。  あげく、俺が治療を受けているのを穴が開くほどジーっと見ていたのも、こいつだ。 「あ、あのさ、ホントに気にしなくて良いから。もう痛くもないし、眼鏡も無事だったわけだし」  昇降口の前で、俺は後ろを振り向いて努めて明るく振舞った。  俯いたまま黙り込んでいた中条だが、しばらくしてか細い声が聞こえてきて、俺は「え?」と聞き返す。  国宝級イケメンの顔は、なぜだか苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。  こんな状況でも、イケメンはどんな顔をしても様になるんだな、と無責任なことを思う俺はどこか薄情なのかもしれない。 「そんなの、無理に決まってんじゃん! miccoの顔を傷つけたのに気にしないなんて無理だ」 「…………」  思考が停止する。  みっこ、と聞こえた気がしたけど……。いや、俺の気のせいかもしれない。 「みっこって、なんのこと……?」  作戦その一、miccoを知らない体でいく。  しかし、「片瀬……、悪いけど、俺の目はごまかせないから」と真っすぐな視線で射抜かれてしまう。  ズキュン。  うぅっ、あいつの視線はキューピッドの矢かよ。  破壊力が半端ない。  にしても、どうやら聞く耳すら持ってもらえないらしい。  作戦は失敗に終わるが、俺はすぐさま頭を切り替えた。 「えっと……、あ、あぁ! 思い出した、miccoって女子が騒いでるリンスタのモデル? おいおい、何言ってんだよ中条、そもそも俺男だから、性別から違うじゃん」  作戦その二、俺男ですけど?
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