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大丈夫、相手はあの中条だ。デートなんか慣れっこだろう。
……大丈夫、なのか?
なにも考えていなかったけど、不安がもくもくもくと膨らんでいく。
いや、大丈夫じゃないってあり得ないだろ。どう大丈夫じゃないんだよ。
もうこれ以上考えるのはよそう、と頭を振った時。
「ごめん、待たせたっ」
広場の噴水の縁に座っていた俺の目の前に、すらっとしたイケメンが現れた。
膝に手をついて肩で「はぁ、はぁ……」と息をしている。まるで走ってきたみたいだ。
「だ、大丈夫か?」
駅ビルにある電子表示の時計は、待ち合わせの時間から3分しか過ぎていなかった。
「ほんっと、ごめん! 初デートに遅れるとか、最悪だ……」
額に滲む汗を拭う中条から、なんだかキラキラが見える。
俺の目がおかしいのか?
目を何回かしばたたかせるも、キラキラはなくならない。
「なに着てこうか、迷いだしたら決まらなくなっちゃって」
か、カワイイかよ!
しかも初デートって!
キュンが止まらねぇ!
「だ、大丈夫だって、そんな待ってないし、気にすんなよ、な? と、とりあえず座れば」
「あぁ、ありがと……」
中条は、俺の隣に座って呼吸を落ち着かせる。俺は、黙ってそれを待った。
俺は、隣の中条をちらりと盗み見る。
私服姿のこいつを見るのは初めてだ。
黒のプルパーカーとベージュのチノパンに、薄手のコーチジャケットを合わせてウェストバッグを斜め掛けしている。雑誌の中からそのまま出てきたかのような着こなしだった。
くそ、なんでファッションセンスまで抜群なんだよ。
イケメンはなに着ても様になるのに、こんなバッチリ決められたらもうけちのつけようがないじゃないか。だっさい格好できたら笑ってやろうと思ってたのに。
「あのさ……」
「あ、もう落ち着いた?」
控えめな声に見上げれば、目がぱっちりと合ってしまう。しかも、予想よりも遥かに近い位置に中条の顔があってドキッとした。
「片瀬、マジで可愛い……。可愛すぎるんだけど」
そう言って、中条は両手で口を押さえる。隠しきれていない頬は真っ赤に染まっていた。
え、照れてる……。
く、くぅっ……。
可愛すぎるのは、俺じゃなくてお前だよ、中条……!
可愛い、なんて言われ慣れている俺なのに、中条の照れが伝染して顔が熱くなった。
お、落ち着け俺。
忘れちゃいけない。こいつは学年一、いや学校一のイケメンで女たらしだ。
こんな女の扱い慣れてるヤツに振り回されてたまるか!
「ま、まぁ、姉ちゃんが気合入れてやってくれたから可愛くて当たり前だかんな」
なに言ってんだ俺。
シスコン丸出しじゃんかよ。
「片瀬の姉ちゃん、マジ天才だよな。今度会わせてよ。お礼が言いたい」
「お礼? なんの?」
「miccoをこの世に生み出してくれたお礼」
「なっ……」
な、なんだ、その殺し文句は……っ!
「……中条そんな好きなの、miccoのこと」
「うん、一目惚れ」
「っ」
「だから、今、すげぇ嬉しい」
その言葉の通り、すげぇ嬉しそうな顔の中条を見て、俺は自分の軽はずみな発言をものすごく後悔した。
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