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第5話
昼飯を食べ終わってから、なにかしたいことがあるかと聞かれた俺は、ちょうど昨日リンスタで欲しい新作グッズが投稿されていたのを思い出した。
その雑貨屋がこの駅ビル内にあるのだ。
ダメ元で言ってみれば、中条は二つ返事で承諾してくれた。
「ありがとな、付き合ってくれて」
目当ての物をゲットした俺は気分がいい。隣を歩く中条からは、どういたしまして、と笑顔が返ってきた。
「中条って、やっぱ色々と慣れてるのなー」
中条は、女性客しかいないファンシーな雑貨屋に躊躇う様子もなければ、俺が物色している間も文句一つ言わずに待ってくれた。
それどころか、中条も一緒になって店内を楽しんでいる様子だったおかげで、俺も気兼ねすることなく見て回れた。それが、彼の素なのか気遣いなのか、俺には判断がつかない。
俺の言葉に彼は「なにが?」と振り向いた。
「デート」
「あぁ」
否定しないんだな。
まぁ、このレベル(どのレベル)になると否定したところで謙遜通り越して嫌味だもんな。
「なんで彼女作らないの?」
俺は、ずっと気になっていたことを聞いてみた。高校に入ってから耳にする、女子の会話に頻出する「中条佑太朗」は、いつでも「みんなの佑太朗くん」だった。誰とでも仲がいい彼の周りには、いつでも可愛い女子が群がると言うのに。
「彼女にしたいなーって思える子に出会えなかったから、かな?」
「うわ、理想高すぎ」
「ははっ、まぁそうなるか。でも、俺の理想は目の前にいるんだけど?」
「いや、俺男だから」
「知ってるって」
いや、なんか、ホント男でごめんって思った。
「あ、片瀬」
「え?」
突然、ぐい、と腕を引っ張られた。
よろけるように中条に肩がぶつかるも、それをやさしく受け止めてくれたのはやっぱり中条の手だった。
軽く抱きしめられて、ふわりと香るフレグランス。
柔軟剤か香水か、どっちだろうと一瞬考えるも、目の前に中条の口元が見えたことで、どこかへ飛んでいく。あまりの近さに心拍数があがった。
「ちゃんと前みて歩けよなぁ」
がやがやと通り過ぎていく男女数人の大学生っぽいグループの背中に向かって中条がぼやく。その声が、触れた体から振動として伝わってきて、どうにかなりそうだった。
「ご、ごめん、ぼーっとしてた」
「片瀬じゃなくて、あいつらだよ。あ、一回どっかで休憩するか」
中条は、さりげなく俺の手を取ると、なんか小腹に入れたいなーとのんきな事を言いながら歩き出す。
俺よりも一回り大きな、中条の手は、確かに男の手でごつごつとしている。そして、手の中で俺の手を持ち替えて指を絡めてきた。
そのあまりにも自然な動作に、俺はされるがまま。すっかり抵抗するタイミングを逃してしまうも、現実が俺を正気に戻す。
「ちょっ、な、中条! 手!」
「あ、嫌だった?」
バッと振り向いた中条は、その整った顔を悲壮に歪めている。そんなあからさまに落ち込まれるのは、こちらとしてもなかなかしんどいものがある。
「やだっていうか……、誰かに見られたらどーすんだよ!」
「俺は別にどうもしないけど? 片瀬が嫌じゃなければつなぎたい」
「つなぎたいって……、俺たち男同士じゃん」
「大丈夫だって、どっからどう見ても片瀬は女にしか見えないから」
そういうことを言っているんじゃないんだけど……。
ニカッと笑顔を向けられてしまえばなにも言えなくなるってもんだ。
はぁ、俺、今気づいた。
イケメンに弱いんだ。
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