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「――あ……」
忘れてた……。
俺は、やつの要望であるデートに付き合った目的を、たった今思い出した。
あいつが、どういう意図で俺に彼女になれと、デートがしたいと言い出したのか、知りたかったんだ。
「ほぉほぉ、本来の目的を忘れるほど楽しかったんですかぁ」
「ち、違うって……」
否定したところで虚しいかな、なんの説得力もない。
「そ、そういえば、姉ちゃんに会いたがってた」
っだー! バカか俺は。
話を逸らしたくて焦った勢いでいらんことまで口走ってる。
「私? なんで?」
「さ、さぁ? 俺に聞かれても……」
「まぁ、良いわ。今度の撮影に連れておいでよ。イケメンを私の手で美少女にしてあげるわ。んで、miccoと二人で私の服着て写真撮ろう」
「いや、さすがにそれは嫌がるんじゃ……」
姉ちゃんはなにか閃いたらしく、一人の世界に入り込んでぶつぶつとなにか呟いている。
「イケメンの写メとか無いの? あと身長も」
「え、写真……」
俺の動揺を見逃さなかった姉ちゃんはニヤリと笑う。
あ、と思った次の瞬間には、目にもとまらぬ速さでテーブルの上に放り出されたスマホを奪い取った。その速さと言ったらかるたの大会で見るアレだ。
「うわー! やめろぉ!」
手際よくロック(俺の誕生日)を外した姉ちゃんに、俺は諦めの境地だ。幼い頃から刷り込みよろしく、体にしみ込んだ上下関係(もはや主従関係)は覆ることはないらしい。
「うっわ、やっば! つか、ちゃっかりツーショット撮っちゃってぇ。これ、どっからどうみてもリア充のハイスぺカップルにしか見えないわー」
それは、カフェでスイーツを前に二人並んで撮った写真。中条がどうしてもと言うから仕方なく撮った一枚だ。
「身長は?」
「180くらいかな、目測だけど」
「体格は? 華奢?」
「ん-、着やせするタイプかな、……知らんけど」
腕を引かれて触れた時のことを思い出して、かぁっと頬が火照った。
「いいねいいねー。次の土曜日、マジで連れてきて! わかった?」
そう言う姉ちゃんの目はキラキラと輝いていて、背筋に冷たいものが走った。
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