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第1話
*
時はさかのぼること1カ月前の4月。
うららかな春の陽気に包まれたこの日は始業式だった。
無事に進級を遂げた俺は、「2-2」というプレートの掲げられた教室にいた。
学年が変わり、クラス替えがあり、担任も変わり、心機一転新学年を迎えた教室は、階が変わっただけでつくりは何一つ変わらない。
そのせいか、俺はなんの感慨深さも感じられない高校2年生がスタートを切っていた。
俺の名前は、片瀬尊(かたせみこと)。青春を謳歌する花の16歳。
……と言いたいところだけど、そんなリア充とは縁遠い存在の俺。
瓶底黒縁眼鏡に、ぼさぼさ頭。身長だって男のくせに170もない低身長の、いわゆる女子からは見向きもされない地味男子だ。
顔のつくりは悪くはないと思うけど、訳あって学校ではあえて隠していた。
その訳とは、俺のある特殊な趣味によるものだ。
「ねぇ、micco(みっこ)のリンスタ見た?」
朝の教室で一人静かに過ごしていると、クラスメイトの女子のトーンの高い声が耳にストレートインする。
miccoとは、特に女子高生に人気のファッション系リンスタグラマーの一人で、miccoが着た服は高確率でバズる、と言われている。
小動物を思い起こさせる可愛いさと清廉さとで男女問わずフォロワー数を伸ばしている。投稿は写真のみで動画はもちろん声の発信も行っていないというミステリアスな一面も好奇心を煽っている一因かもしれない。
「見た見た! 今回も神コーデ!」
「だよね! てか、あのトップスのブランド知らなかった」
「あぁ、あれね、駅ビルに入ってるらしいよ! 気になって調べた」
「さすが、仕事が早い! 放課後寄っちゃおうかな~」
きゃっきゃとスマホを見ながらはしゃいでいるクラスメイト達の話を聞いて、俺はちょっと誇らしく感じていた。
なぜかって。
それは、彼女たちの話題の「micco」がこの俺だから。
え? よく自分で、小動物を思い起こさせる可愛いさと清廉さがある、なんて言えるなって?
誤解しないでほしい。それは、世間からの評価であって、俺が言ったわけじゃない。
言えてせいぜい「そこそこの顔」ってだけ。
俺のもう一人の姿であるmiccoが、俺が顔を隠している理由であり、俺の趣味は女装だということをここに宣言しよう。
だけど、誤解の無いようにこれだけは言わせてくれ。
俺の趣味は女装だけれど、恋愛対象は女性だと言うことを。
ややこしいヤツと言われても仕方がないけど、俺は、可愛いものが好きなだけなんだ。
だから、決して俺の恋愛対象が男だとは思わないように。
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