第1話

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 女装が趣味なんて、こいつ頭おかしい。と思われても仕方ないけれど、これには深刻な歴史的背景があることも言っておく。  俺には、3つ年の離れた姉ちゃん・環(たまき)がいる。  あぁ、もうここで察しがついた人も居るかもしれない。  そう、俺は生まれた瞬間から姉ちゃんの「お人形」という宿命を背負っていた。 「ままぁ、たまちゃんがみっちゃんのおむつかえたげるね」 「はい、みっちゃんあーんして」 「みっちゃん、髪の毛結んであげる―」 「お洋服はたまちゃんが選ぶね」 「みっくん、肌綺麗! ちょっと化粧させて」 「え? ヤダ? お姉さまの言うことが聞けないの?」 「尊、これ(スカート)着て買い物行こ」  慣れとは恐ろしいもので、物心つく頃には女装に抵抗は全くなく、今では俺自身も可愛いものを見たり集めたりするのが好きになってしまった。  そして、幸か不幸か、俺の愛らしい顔と華奢な体が相まって、それ(女装)も違和感がないどころか、こう言ってはなんだが、そこら辺の女子よりもしっくりと似合うのだ。  さらに、それが環の琴線に触れたのか、彼女は小学生高学年の頃から俺に自分で作ったものを着せるようになる。  それはヘアアクセなどの小物から始まり、スカートやワンピースなどに派生して、本格的なゴスロリなどまで作れるようになっていったから驚きだ。  好きこそものの上手なれ。  もう、その一言に尽きる。  それを証明するかのごとく、趣味が講じて今は服飾系の専門学校に通いその道を極めようとしているから天晴れだ。 『だって、尊の可愛さを最大限生かせるのは私しか居ないでしょ』  彼女曰く、そういうことらしい。  ちなみに、俺(micco)のリンスタグラムの運営はすべて姉ちゃんがやっている。  もともとは、姉ちゃんのオリジナル服ブランド【micco】(そのまんま)の宣伝用アカウントとして開設したのだが、モデル担当の俺(micco)の人気に火が付き、あれよあれよとフォロワー数が増えていき、いつの間にか俺のアカウントになってしまった。  姉ちゃんの作る服はどれも即買い手が付くし、姉ちゃんと俺の趣味で載せたコーデもどこのブランドのものなのか教えてほしいというコメントやらDMが殺到する。(今は逐一ブランド名からご丁寧に商品名まで載せているため問い合わせは減ったし、晴天ルームを活用して収入を得ているチャッカリ者の姉。もちろん俺も協力料としておこぼれに預かっている)  だから、さっきクラスの女子たちがmiccoの話で盛り上がっているのを聞いて誇らしく思ったというわけだ。  でも、俺=miccoは、絶対に誰にもバレてはいけない企業秘密。 「あっ! 佑太朗(ゆうたろう)くん来た!」   女子の声って、どうして否応なしに聞こえてくるんだろうか。思わず耳を塞ぎたくなる衝動をぐっと我慢する。 「同じクラスとか、最&高なんだけど」 「もうさ、今年度の運使い果たした気分」  俺は、女子にそこまで言わしめる注目の的「佑太朗くん」を盗み見た。
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