第2話

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 Mineにひよりから『一緒に帰ろう』というメッセージが入っていたが、『用事があるから無理』と丁重にお断りしておいた。  美少女と地味男子が一緒に帰っているところを見られでもすれば、翌日学校で面倒なことになるのは明白。  俺は、極力目立たずひっそりと、平和に過ごしたいんだ。  それは、miccoのこともあるけど、もともとの俺の性格によるものでもある。人とのコミュニケーションは、できるだけ最小限に留めたい平和主義者(またの名をコミュ障という)なんだな俺は。  用事がある、と言った手前、すぐに帰って鉢合わせするのも嫌だった俺は、教室で小一時間過ごしてから動き出した。  すっかり人気のなくなった廊下を進み、昇降口へと向かう。  聞こえてくるのは、かすかな話し声と運動部の掛け声、それと、特別棟から管楽器の退屈そうなロングトーン。  こんな時間に帰るのは久しぶりだな、と思いながら俺はスマホを取り出してなんとなくリンスタを開いた。  俺のTLにはフォロー中のファッションブランドの投稿がずらりと並ぶ。  もうすでに夏服の新作が投稿されている。  スクロールして目に留まったものをタップする。  可愛いけど……、ちょっと露出が多いな。  夏は、俺にとってはあまりいい季節じゃない。  いくら華奢だと言っても、俺は男で……、声も変わった今の体は昔と違いごつごつした男らしさが目立ってしまう。  自分の体に嫌悪感があるわけでもないけど、「かわいい」を追及するためには、できるだけ露出を避けたかった。  まぁ、その辺は、姉ちゃんが小物やポーズでうまいことちょろまかしてくれるんだけど。 「――うわっ」 「っ?!」  そんなことを考えながら歩いていたせいで、俺は自分以外の足音に気づかず、丁度廊下と階段の曲がり角、出会い頭に誰かと衝突してしまった。  相手は走ってきていたようで、俺は後方に吹っ飛ばされた。  衝撃でぎゅっと瞑った目の中に火花が走る。 「ったー……」 「悪いっ! 大丈夫か!?」  打ち付けた体の痛みに耐える中、聞こえてきた声に、俺はハッとする。  この声、中条だ。  だけど、顔をあげても景色がぼんやりとぼやけていて、中条の顔を認識できない。  眼鏡が、ない。  あ、やべ。  0.1を切る俺の視力を舐めてもらっては困る。床を見ても眼鏡がどこにあるのか全然見つけられなかった。 「だ、大丈夫……、だけど、眼鏡が……」 「ここにあった。……良かった、壊れてはなさそうだけど……、ホントごめ、――あぁっ!」  なんだ、なににそんなに驚いているのか。  差し出された眼鏡を受け取ろうと手を伸ばしたが、それは空を切る。  ――カラン  と乾いた音は、きっと俺の眼鏡だろう。割れてないことを祈るしかない。 「片瀬、血が出てる!」 「え……?」  声と一緒に、俺の両頬が中条の手に挟まれた。 「ちょっと見せて!」  抵抗する間もなく、中条は俺の前髪をかき分けたのだった。
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