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第3話
ヤバい。
そう思った時には、視界が明るくなる。けれど、見えたのは、中条の茶色の髪と白い肌もぼんやりとした輪郭だけだ。
「え……?」
一瞬、息を呑むような気配を感じたが、彼がどんな顔をしているのかまでは、見えなかった。
「痛っ」
中条の手が傷口を掠め、ピリッとした痛みが走る。
「あぁっ、ごめん! こめかみのところが切れてる、保健室行こう」
「だ、大丈夫だから……、それより眼鏡を……」
「わ、悪い! ホント、ごめん」
拾ってくれた眼鏡をかけると、ようやく視界がクリアになった。
うぅ、直視できない。
クリアな視界かつ至近距離で見る国宝級イケメンは、目の保養を通り過ぎて毒でしかないことを知る。
けど、眉根を下げて心配そうな表情の彼は、とても幼く見えて、
「か、かわいい……」
なんてセリフが口を突いて出た。
中条が「え?」と耳を疑う。
可愛いものを見ると可愛いと言ってしまうのは、もはや条件反射だからどうか許してほしい。
俺は、慌てて「な、なんでもない! じゃ、じゃぁ、俺もう行くから」と立ち上がった。
なのに、
「ダメだって! 保健室!」
中条は俺の手を掴み、転がっているスマホや鞄をかき集めて強引に歩き出した。
手首は、しっかりと掴まれていて、解けそうにない。
あれ? そういえば中条のやつ、俺のこと片瀬って呼んだよな。
こんな地味男子みたいな俺の名前まで知ってくれてたんだ……。
さすが、陽キャのイケメン。
中身までかっけぇな。
保健室までの道のり、中条の手のぬくもりがじんわりと伝わってきて、なんだか胸がざわついた。
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