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「……てっきり、先輩は僕と一緒に死にたいのだと思っていました」
佳乃先輩は、目を瞑って微笑む。
「違うよ。死にたいだなんて書き連ねる君が、どんな人なのか……ちょっと気になっただけだよ。だって、もうすぐ死ぬ私ですら、こんなに怖いのに……」
「説教でもしてやろうと思ったんですか」
「んふふっ、そうかも」
佳乃先輩は、背伸びをして、僕の首に腕をまわす。
息が、耳にかかる。
先輩は、生きてる。
こんなにも、しっかりと、ここにいるのに……。
「……先輩……っ、」
僕は、骨張った背中を強く掴んだ。
このまま一生、離したくないと思った。
「んー?」
「…………生きて、くれませんか」
先輩の顎を乗せた肩が、じんわりと濡れていく。
しばらく間を空けると、先輩は僕の顔を見て、凛として言う。
「私は、桜になって、秋くんのことをずっと見守っているから。だから、秋くんは、私が咲くまでちゃんと生きなきゃいけないんだよ。秋くんが重たい男だから、仕返しっ。最後の最後まで、私との約束を、ぜーったいに守り抜いてくださいね」
そっと、僕は桜色の唇を奪った。
二週間後――佳乃先輩は、儚く散った。
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