佳乃先輩は今日も咲かない。

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 佳乃先輩に出逢ったのは、桜が散る頃だった。 「あー……だりぃ……」  僕は桜の下のベンチでため息を吐き、なんとなく中庭を眺める。  真上から燦々と光が降り注いでいるというのに、色褪せた景色に見えるのはいつものこと。  校庭からは、やけに気合いの入った野太い声と、ボールが蹴り上げられる音が聞こえる。瞬間、女子の黄色い声が響いた。……あぁ、やっぱりサボって正解だったな。僕のみっともない姿を、晒さずに済んだ。  家に帰るのも、今から制服で街を彷徨くのも、億劫で仕方がない。  気分転換になれば、と思ってここに来たけれど……不正解、だったかな。自分だけが、この青春の舞台から浮いている気がしてしょうがない。  おもむろに立ち上がり、行く宛てもなく去ろうとした瞬間。 「よっ! 見ない顔だねぇ」  つまらない景色に、鮮やかな桜色が飛び込んできた。
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