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桜色の髪の毛に、桜色の瞳。桜色の頬に、透き通るような白い肌。
……うわっ。これが噂の、佳乃先輩か。
突如、異種族に出くわした気分だった。
自分とは住む世界が違うな、と一瞬で勘づき、引け目を感じる。
なんでも、この佳乃先輩とやらは、新学期から急に髪の毛を派手に染めたりして素行不良になったらしい。毎晩、他校のヤンキーと夜な夜な出歩いているとか。
とにかく、良い噂を聞かない。
僕とは生涯縁のない人のはずだ。
けど、相手はなぜか、僕に興味津々な目を向けてきている。
……面倒くせぇ。
「君、いま〝面倒くせぇー〟って思ってるよね?」
佳乃先輩は、腰を折ってまで上目遣いしてくる。
慣れた所作だこと……。
「うわ、さらに面倒くさそうな顔してる!」
「……。僕ってそんなに分かりやすいすか?」
あっははは! とお腹を抱え、佳乃先輩は弾けるように笑った。
「うんっ。あと、君はすっごく天邪鬼だよね? きっと! どう? 当たってる?」
「……それはちょっと分かんないすけど」
あっははは! とまた嬉しそうに笑った。
この人のツボが分からない。
「ねぇ、名前なんていうの?」
「……秋、っす」
「秋くんね! いい名前! 私のことは知ってる?」
「まぁ、はい。……有名っすから」
んふふっ、と佳乃先輩は少女のようにはにかんだ。
……この人から目が離せないでいる自分に、なんだか情けなさを感じる。
それから、佳乃先輩はベンチに腰掛け、満面の笑みで隣をぽんぽんっと叩く。……座れ、ってことか?
僕はうんざりとしながら、黙って腰掛けた。なんだか、気が済むまで解放してくれなさそうだったから。
意味も分からず、そうして二人で桜を眺めることになった。
流されるがまま、佳乃先輩の空気に呑まれていく。
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