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それから、二人で何度もお花見をした。
朝も昼も夜も、暇があれば、佳乃先輩の隣にいた。
空に舞う花びらを見る度、「私に似てるから嫌いっ」と佳乃先輩は悪態をついていた。
だけどなぜか、僕と桜を見たがった。
あるとき佳乃先輩は、ほのかな月明かりの下、公園の砂に奇妙な絵を書いていた。
「……なんすか、それ」
「うわぁっ! 秋くん、来てたんだ! 幽霊かと思ったよ!」
いくら何でも影が薄いからって、そこまで言わなくても……と思ったけど、いきなり背後から声をかけたのは悪かった、と素直に謝った。「天邪鬼じゃなくなってきましたねぇ」と笑う佳乃先輩の顔は、もうすっかり桜色に染まってしまっている。
じわじわと、蝉が鳴き始めていた。
「お墓のデザイン、考えてたの」
細くなってしまった腕を動かし、佳乃先輩は呟く。
「……そんなの決められるんすか」
「知らないけどっ! 秋くんにはお参りに来て欲しいから、どっかには作る!」
佳乃先輩は、ふんすっ、と鼻を鳴らした。けど、すぐに「あ。でも桜なんか持って来ないでね、宿敵みたいなもんだから」と吐き捨てた。
僕と出会ってから、佳乃先輩は夜の街で遊ぶのはやめたらしい。
なんだか、キャラも変わったような気がする。
桜が似合う人から、タバコが似合うような人になった……って、吸ってはいないけど。
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