青年よ愛を抱け!

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「必ずやアメリカの大学で学位を取得し、自己研磨に励み、世界に貢献できる紳士になって日本に戻ってきます!  その暁にはっミドリ先生、改めて結婚の申込みに参ります!」  一世一代の告白に鼻息荒い冴島(さえじま)くん。  ぽっかーん、と思いに(ふけ)る生徒諸君。  彼女ができたら…あんなことやこんなこと…  俗に言うイチャイチャラブラブへの煩悩が支配しても、健全たる男子ならば当然のこと。  それを冴島くんは超越し、まず婚姻する将来を第一にして人生の選択をしていることに、年頃の男子たちは彼をリスペクトしています。 「ミドリ先生!何時(いつ)如何(いか)なるときも貴方を生涯幸せにするとここに誓います!!」 「「「 おぉ〜っ 」」」  オーマイガッ!  大胆不敵な公開プロポーズ。宣誓してしまいました。  ミドリ先生、羞恥の極みでしょう。可愛らしく肩をすくめて酸っぱい顔になってしまいました。  求婚がおふざけではなくて本気なのだから、無下にできないと余計に困ってしまいますね。  「ふぅ」と溜め込んだ思いの(たけ)をぶつけ、ひと息をつき、(かしこ)まって皺くちゃになった式辞紙を広げる冴島くん。  いつもの冷静さを取り戻しました。 「気儘(きまま)放題の御無礼をお許しください。最後の機会に胸一杯で、伝えておかなければと思いが溢れます。  特別言わんとするところ、惜しみない愛情を注いでくれた両親へ心からの感謝を。  恵まれた環境を与えてくれたこと、成人に至るまで育ててくれたこと、当たり前ではない幸福だと常日頃感じています。  想像するにどれほど苦労をかけ身を削らせたことでしょう。  痛みも(いと)わずその深い愛情で、それぞれ私たちを慈しみ支えてくださいました。  高校卒業の折に今までの感謝をお伝えつつ、これからの新しいスタートも温かく見守っていただけると心強く思います」  赤子から(たくま)しい姿へと成長を遂げた長き日々を瞬きのうちに振り返れば、感無量で涙が込み上げてくるものでしょう。  あちらこちらで目頭を押さえる保護者が続出です。
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