青年よ愛を抱け!

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「――そして迎えた門出の晴々しい今日に、意気軒昂(いきけんこう)でありたいと望んでおりますが、未だ友との別れに心寂(うらさみ)しい思いを拭えません」  続く答辞の言葉に強く共感し、しみじみと何度も揃えて首肯(うなず)大田(おおた)くんと金子(かねこ)くんの隣を見ますと…  桐谷(きりたに)くんの表情はまるで苦虫を噛み潰したように険しい。 (斯々然々(かくかくしかじか))やれやれ。  天才と崇められつつ、マッシュな髪型にクリッとした瞳で愛嬌があり、皆に親しまれた冴島(さえじま)くんがいけ好かないのですね。  おっ、と。  他にも舌打ちするかの(ごと)く、しかめっ面の3番手4番手5番6番…  谷派(たには)の面々であります。  5期連続当選の冴島生徒会長のもと、学内が冴派(さえは)で占められ和気藹々(わきあいあい)と学業に邁進…  と順調に物事が運ぶはずもない。  いつの世も数多(あまた)の群れも、争いごとや衝突は尽きぬもの。  学内2番が定位置の桐谷くんを筆頭とする谷派は、通称・黒の鷹軍団『ブラックホークス』と呼ばれ、ことあるごとに生徒会と対立してきたのですね。  要するに、癪に障るので日頃の鬱憤晴らしも兼ねて、仕様もない難癖を吐き散らしていただけのようですが…  谷派が黒縁眼鏡をかけ近眼勤勉が(ゆえ)に眼つきが悪く、バチバチの論争を期待する周囲からヒール役に仕向けられた(ふし)(いな)めない。  ワタシのような年寄からみれば、負けず嫌いで青臭く可愛いらしい(やから)に思えます。 「誇るべき本校で出逢い、校訓である臥薪嘗胆(がしんしょうたん)に基づき、目的を果たすため将来の成功のため、努力と試練の日々を共にした同志たちへ。私はこの場を借り感謝の意を伝えたい!」  冴島くんの答辞も抑揚がついて力強くなってきました。言葉にきちんと思いが込められています。
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