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「――改めて厚く御礼申し上げます。
そして我が担任の橘ミドリ先生。如何なる時も私たちを鼓舞し自信を与え奮起させてくださいました。
その情熱的で強烈なフラメンコは、網膜に焼きつき脳裏にこびりついて忘れることはできません。……素敵だ」
瞳を閉じて口籠ってしまった冴島くん。
いったい何事でしょうか?
突如訪れた余韻に式場の誰もが疑問符を浮かべると、壇上前の彼へ視線が集まります。
(斯々然々)オォ!
ミドリ先生の十八番であるフラメンコのタンゴ。
卒業生が高等部1年次に新任した彼女は、熱心に言葉だけでなく全身で生徒を応援してきたのです。
一心不乱に踊る度に鮮烈な赤色のフリフリスカートが舞い、高らかに鳴る手拍子と力強いステップ音に、溌剌とした「オレ!」の掛け声は、生徒のモチベーションを高めました。
ミドリ先生なりの独特な激励の仕方です。
冴島くん、初めて見たフラメンコの迫力と妖艶さが琴線に触れる体験だったみたいですね。
素敵なタンゴの舞を思い出し悦に浸っておりましたが、ふと我に返ったようでカッと目を見開きました。
「今日の着物姿も、なんと麗しいこと限りなし。まるで歩く姿は百合の花……」
淡い黄色の着物に深い緑の袴姿、黒髪を簪でまとめたミドリ先生。
式場の下手に着席しています。
大和撫子のようにお綺麗で冴島くんが見惚れるのも理解できますが、なにせ答辞の最中ですから。
彼らしからぬ不可解な言動に皆が首を傾き始めます。
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