青年よ愛を抱け!

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「私たちがたくさんの愛情を受け成長できたことは身に沁みております。  若さ故に受け取るばかりで、慈しむ心については知識上理解していただけに過ぎなかったのです。  この情熱を肌身で感じてからは世界が一変したかのように見方が変わりました。  世界は愛で溢れている!  愛とは偉大な力を持っているのです!」  政治家の演説を思わせる大きな手振りで、高く振り(かざ)した手を握り(こぶし)にする勢いに、目前の校長先生も若干たじろいでいます。 「命あるものを大切にする気持ち。森羅万象の何物かを好み大事にする気持ち。  その愛情と情熱が優れた産物を生み社会は発展を成し得るのでありましょう。  私も一端の成人として貢献したい所存です。  不束者(ふつつかもの)ですが未来の伴侶にミドリ先生を想定し、これまで努力と最善の選択をしてまいりました。  明るい未来と幸せな家庭、まだ見ぬ可愛い我が子のためならば!  今日の試練は何のその!何でもござれ!!」  校長先生、手をモジモジさせ目が泳いでいます。  内心、在職中における初めての珍事で異例の事態に(いささ)か動揺しているのですね。  冴島(さえじま)くんもこのようなスピーチは準備していなかったようですし、途中からアドリブになっています。    本日は卒業式。高校生活も最後の日となり、ミドリ先生に募らせていた愛が(こら)えきれなかったのでしょう。  初々しいと言いましょうか、若気の至りと言いましょうか。  血気盛んな青年で、ワタシまで胸が躍るようです。  若者が明朗快活であることは良い景気の兆しとなりましょう!
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