2人が本棚に入れています
本棚に追加
何となく、義田がいなくなるタイミングを見計らった。そのまま昼休みに差しかかった。
「寺井くん」
彼の背中に近づいて声をかける。
「はい」
短く返事をしてこちらに顔を向けた。俺は覚悟を決めて息を吸う。
「飲みにいく話、嫌だったら行かなくてもいいよ。嫌じゃなかったら、来てくれたら嬉しいけど」
相手はただまばたきをするだけだった。目を伏せると「あの」と遠慮がちに続ける。
「義田さんもいるってことですか?」
「義田? うん、いるけど」
寺井くんは一瞬だけ目を合わせると、左右に泳がせた。
ああ、この反応は。
「義田のことは苦手?」
相手は視線を逸らしたまま頷いた。
「藤宮さんだったら全然嫌じゃないです、けど」
「そっか」
そういうことだったのか。俺は何度も頷いた。
「じゃ、二人で行こうか」
寺井くんは顔を上げた。そのとき、彼の顔にぱっと花が咲いた。
俺の予定がまた一つ増えた。「部長と飲みにいく」の他に、寺井くんとも。
これから少しずつ、皆の素顔を知っていけばいいか。
最初のコメントを投稿しよう!