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 オレンジ色の明かりがほんのりと照らす。その穏やかな照明に反して、辺りの喧騒が頭の中を無理やり掻き回してくる。壁のようになって、周囲との会話から俺を切り離そうとしている。時折聞こえる単語がひとりでに成長して、ああでもない、こうでもない、と想像の根を張り巡らす。  いや、それより今会話の主導権を握っているのは──。 「(ふじ)さん、大丈夫?」  俺の名を呼ぶ声に、はっと我に返る。俺を「藤さん」と呼ぶのは、同期の義田(よしだ)しかいない。「あ、ああ」と返事をすれば予想外にか細い声になった。俺はやや大げさに咳払いをした。 「大丈夫だ」 「本当に? なんか、ぼーっとしてるみたいだったけど」  尚も心配そうに覗く彼に「大丈夫だから」と繰り返そうとする。と、そのタイミングで「焼き鳥でございまーす」と店員が長方形の皿を運んできた。 「おお、焼き鳥だ焼き鳥だ」  俺や義田より先に、向かいに座っている先輩たちが声を上げた。いい匂いっすね、と義田も弾んだ声で言う。  直後、近くのテーブルからどっと笑い声が漏れてきた。周囲の喧騒を打ち破る、品のない太い声。振動が伝わってくる気さえした。  俺は眉間に皺を寄せた。誰に見せるわけでもないのだが、つい当てつけたくなった。 「部長たち、盛り上がってますね」  震源地を一瞥した義田は、冷めた笑いを交えながら焼き鳥にかぶりついた。確かに、と先輩たちも苦笑いする。  あのテーブルには門沼(かどぬま)課長をはじめとした、比較的年齢層の高い人たちが固まっている。そして何より、前島(まえじま)部長がいるのだ。広くなった額、腰のベルトからはみ出る腹、重いひとえ瞼に埋まりそうな細い目。背はあまり高くはないが「彼が来ると座席が少々狭くなる」と先輩たちがこぼしていたことがあった。それだけならまだしも、部長は声が大きいのだ。店内でも、このテーブルまで会話がはっきり聞こえてくるのは部長だけだった。隣り合うテーブルを用意できなかったことを謝罪した店員に、今更ながら拍手を送りたくなった。 「部長と違うテーブルで良かったねえ」  先輩の一人、武内(たけうち)さんがまったりと言った。ビールを啜り、口をへの字に曲げた。 「ビールよりチューハイのほうが好きなんだけどなあ。最初の一杯はビールにしないと、部長の機嫌が悪くなるしなあ」  そう言って力なく笑う。義田もはははと声を出した。 「ま、こっちは平和に行きましょうよ」  なあ藤さん、と俺を見る。  そうだなと返そうとして、テーブルに落とされた影に気づき、息を呑んだ。影の先を辿ると、そこにいたのは──。 「楽しんでいるかな?」  狸の信楽焼のような出で立ちで、前島部長が立っていた。
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