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 席に着くなり、隣の義田が椅子ごと近づいてきた。 「部長との最後の飲み会、どうだったんだ?」  俺のデスクの縁に肘をつく。妙な期待のこもった目でこちらを見つめる。部長の粗でも探そうとしているのだろうか。いや違う、とそんな考えを振り払った。同期を疑いたくはなかった。 「特に問題なく終わったかな」  相手はへえ、と意外そうな顔をした。それはなにより、と表情を引っ込める。 「ま、部署の飲み会がなくなって、楽になっただろ」  やることやったからな、と誇らしげに顎に手を当てた。まさか。 「部署の飲み会がなくなったのって」  俺が言いかけると、彼は唇に人差し指を当て「しー」と息を漏らした。  やはりそうだったのだ。会社の相談窓口に詳しかったのにも納得がいった。そもそも部署全体での飲み会は、若手を中心に嫌がられていた。彼の行動は評価に値するものだろう。 「まあ、やりたきゃ個人的にやれってことか」  俺も義田の真似をして顎に手を当てた。「どした?」と彼に不思議がられた。 「そういや、寺井くんも誘おうって言ってて、誘ってなかったな」  義田は不意に寺井くんの席のほうを見た。  彼の背中が目に入る。相変わらず真っ直ぐな姿勢でモニターを見ていた。 「寺井くんなら、飲み会はちょっと遠慮したいってさ」  俺が答えると、相手はひええ、と背もたれに寄りかかった。 「やっぱ真面目くんだなあ」  そのまま自分のパソコンのほうへ戻っていった。  何なんだ、こいつは。
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