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 結局、部署内十七人のうち、参加者は七人だけとなった。年齢は俺だけ二十代で、あとは全員四十代か五十代だった。先輩の武内さんはいないし、もちろん同期の義田も新人の寺井くんもいない。つまり単身で戦場に乗り込みに来たのだ。  現場となる居酒屋の扉を一人が開けると、幾重にも重なった笑い声や歓声がどっと溢れてきた。奥へ進むと香ばしい匂いが鼻をくすぐる。  席は片側が壁に接した長テーブルに長椅子。七人だから、三人と四人で向かい合って席に着く。俺は四人の側で、壁とは反対の端っこに座った。  照明は明るすぎない暖色で、飲食店にはよくある明るさだった。  今日はやたらと部長との距離が近い。今までは先輩たちが緩衝材の役目を果たしてくれていたのだろう。 「じゃ、まずはビールといきますか」  鼻息荒く部長が言った。  やはりこのときが来てしまった──俺はビールもワインも飲めなかった。毎回ウーロン茶を飲むことでお茶を濁してきた、という洒落が成立するくらいには、部長の目をごまかしてきた。しかし今回は目の前で彼がにやにやしながら見ている。瞼に埋もれて、目が線のように細くなっていた。どこかで見たことのある表情だ。  さてどうするか。メニュー表に高速で目を滑らせる。「白桃サワー」の文字に目が留まる。中高年の男性たちからすればジュースみたいだと笑いそうだ。それでも構わなかった。どうせ今回が最後の飲み会なのだ。  それに、賭けてみたくなった。  ──そんなことを思う僕は、面倒な上司、なんだろうなあ。  俺はちらりと彼らを見て、選んだ飲み物の名前を告げた。部長が一瞬戸惑いの表情を浮かべたものの、先輩の一人が「白桃サワーね」と返事をしてさっさと注文を終えてしまった。 「食べ物は何がいい? 好きなの、選んでいいよ」  門沼課長がにっこりと微笑む。目元や口元の皺が顔に陰をつくっていた。俺はまたもや口を閉ざした。  若手が居酒屋でフライドポテトを注文したら上司にダメ出しをされた、という話を聞いたことがあったからだ。部長と同席の飲み会は初めてではなかったのに、彼の好みを心得ていなかった。おつまみ一つでとやかく言われたのでは敵わない。飲み会なんか参加するんじゃなかったと後悔する気持ちが、部長の本音を探りたい欲を抑え込もうとする。幹事を任されなかっただけよかったと思え、と必死に自分を制御する。
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