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声が大きい人はどちらかといえば苦手だった。けれど部長の声の大きさは居酒屋のような喧騒の中でもしっかり店員たちに届いている。俺には至難の業だ。
──この人には、到底及ばないな。けれど──。
自分の中に浮かんできた言葉。俺ははっとした。
彼らに抱いていた嫌悪感の正体が、影のように渦巻いていたそれが、うっすらと明るくなった。
「あの、部長は」
俺は思い切って彼に訊ねることにした。「ん?」と部長が耳を近づけてきた。
「新人の頃、先輩たちとの飲み会が嫌だったって言ってましたけど、飲み会自体は嫌じゃなかったんですか?」
「ああ、飲み会? 飲み会はね、昔から嫌いじゃなかったよ」
腹の底を震わせるような声で答える。相槌を挟もうとすると「でも」と彼が続けた。
「年上の人たちとこんなふうに近くで話すのは、最初はちょっと煩わしかったねえ。でもね」
そこまで言うと、はあ、と息を吐いた。ビールのにおいが広がり、俺は眉間に皺を寄せた。
「先輩や上司たちの素顔を知れて、肩の力が抜けた、かな」
赤い顔で目を細める。どこかで見たことがあると思ったら、七福神の布袋様だ。
──肩の力が抜けた、か。
部長のことを布袋様だと思う俺も、肩の力が抜けたのかもしれない。
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