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胸にうずまる蒼矢の両手が、遠慮がちに自分の背中に回されると、烈はその感触に安堵し、軽く息を吐き出した。
「情けねぇな、俺。腹に決めた時から…や、その前からずっと、蒼矢のこと守りたいって思い続けてきてるのに、全然出来てねぇや。逆にお前に体張らせて守って貰っちまってて。…今回の一件で、俺ほんと自分のこと嫌になったよ。…全然余裕無くて」
「…余裕?」
「うん。最近のお前が何かに気ぃ取られてるってか、目の前にいるのに俺のこと見えてないように思えてさ。…単純に、距離置かれてんのかなって。すげぇ不安だった」
蒼矢が身体を離し、やや虚を突かれたような面持ちで顔をあげると、烈は少し頬を紅くしながら緩く笑った。
「いや、それは全部今回の件があってのことだってわかったから、もう気にしてない。全部俺が勝手に勘違いしてただけだ。でも…[木蔦]に唆された時は…まじで頭の中が真っ白になっちまった。やっぱり、蒼矢のことを繋ぎとめておけなかったなって…影斗に信頼して託して貰ったのに、期待に応えてやれなかったって」
蒼矢に見守られながら、烈は頭を傾げ、困り笑顔を浮かべていた。
「結局俺は、自分に自信が無いんだ。お前や…影斗みたいに、面も良くて頭も中身も優れてれば、少しは気が楽なんだけどさ…気持ちだけあったって、行動が伴ってねぇから」
そして、そのあり余る恵まれた体格を縮こませ、ぽつりと吐露した。
「…お前と釣り合えるような奴じゃねぇってことは、よく解ってる。だから、…お前に気持ちを伝える度胸も無い」
烈はそれを最後に、床を見つめたまま口をつぐんだ。
蒼矢は、そんな棒立ちの彼をしばらく黙ったまま見上げていたが、ふと唇を動かし始める。
「…あの時、俺はもう烈の気持ちを受け取ったつもりでいたんだけど」
「…?」
前髪の間からちらりと見やってくる烈へ、蒼矢は自分の口元を指差してみせていた。
その仕草に少しずつ烈の両目は見開かれていき、頭が飛び起きる。
「……!! っあっ…え!? 蒼矢お前、あれ、気付いて……」
約2ヶ月前。
目に見えぬ脅威に晒されていた蒼矢の身の危険を察した烈は、髙城家へ押し入って、彼を襲っている最中だった鱗に干渉して追い出した。
救い出せはしたものの、蒼矢は既に手酷く甚振られた後で、その事実を幼馴染の烈に知られたことを全力で拒絶した。
烈は興奮状態の蒼矢をなんとか落ち着かせ、疲弊しきった彼をひと晩見守った。
その時烈は、蒼矢が眠りについたところを見計らって気付かれないように唇を合わせたのだが、実際には彼は目を閉じていただけで、自分だけの秘め事としていたそれが思い込みに過ぎず、全て蒼矢の知るところにあったのだった。
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