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そう悠然と言葉を投げると、[木蔦]は片腕を掲げる。
身体に絡む蔦が腕へとうごめき、厚く覆っていく。
腕の先へ集まった蔦はずるずると長く伸びて固まり、皮肉か意趣返しか、蒼矢の得物と酷似した大剣の形を成していく。
深緑の腕の剣を構え、[木蔦]はアズライトへと猛接近する。
振るわれた攻撃を受け止めたものの、アズライトの身体は大きく圧され、後退する。
[木蔦]は無駄の多い挙動から秩序無く腕を伸ばし、アズライトへ振り下ろしていく。
その出鱈目で大振りな攻撃は、大柄にして無尽蔵な体力を備える[木蔦]から休む間もなく繰り出され続け、アズライトは動きを読んで受け止めるものの数歩ずつ後退させられていく。
「ほら、どうした? 得意の氷撃はやらないのか?」
防戦一方となるアズライトへそう煽ると、[木蔦]は腕を膨張させ、上段から大きく振り下ろす。
その重い一撃をなんとか受け流し、距離をとって大剣を構え直すものの、再三の攻撃に両腕が痺れ、切先が下がっていく。
「…っ…!」
…凍結がほとんど意味をなしてない。『凍氷』が使えない…!
[木蔦]の攻撃は止まず、アズライトは幾度となく飛び退きながら装具のぶつかる衝撃と重みに耐える。
属性攻撃の効果が望めないことが知れた今、太刀打ち出来る術は大剣の素の攻撃力しか残されていなかったが、氷柱とほぼ同じポテンシャルに造り上げられた[木蔦]の剣とは物理威力が互角で、得物の遣い手の体躯と筋力の差が、両者の優劣に明らかな隔たりを生じさせていた。
「ふんっ!!」
[木蔦]がひと呼吸大きく吸い、氷柱へ蔦の剣を叩きつける。
アズライトは切っ先を傾けてなんとか受け流し、再び宙を飛んで氷の刃を浴びせる。
しかしやはり蔦はその遠隔攻撃を全て弾き返し、氷塊は粉々になって四方へ飛び散った。
青白い粒子で視界が煙る中、[木蔦]は腕を高く振り被った姿勢で靄から飛び出し、宙で止まるアズライトへと瞬く間に距離を詰める。
「くっ…!!」
アズライトは咄嗟に周囲の氷気を増幅させ、防御を試みる。
本能が危機を悟ったか、まだ使い慣れてない防御技がようやく発動し始め、四肢の先端から中心へ向けて、アズライトの身体が少しずつ青白く染まっていく。
じわじわと防御を固めていくアズライトへ、巨体の弾丸が迫る。
…駄目だ、間に合わない…!!
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