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「!」
陽と同じように車中へ視線を泳がせた葉月は、真ん中辺りにひらめく黒い蝶を認めた。
思い当る節があったのか、蝶へ見張る葉月の目が徐々に開けていく。
「…どこかで聞き覚えのある声だったけど…、まさか」
「あんたが考えてる通りですよ。…お久し振りです」
「…!? ちょうちょがしゃべったぁ!?」
小さな蝶が「鱗」だと理解した葉月はそのまま顔を凍らせ、彼そのものが初見の陽は事実関係がのみ込めず、ひとの言葉を話す蝶にただ度肝を抜かれていた。
「すげぇっ…何のファンタジー!? ゲームの中の世界みたいじゃん!!」
「うるさいな。ひとの目の前で狭い空間にそぐわない大声出すな、耳障りだ。これだからガキは嫌いなんだ」
「ええぇっ!? ちょうちょなのに"ひと"って…。それに、口悪…」
鼻先に羽ばたく蝶から可愛らしい声で毒づかれ、興奮しかけたところから光の速さで興醒めしていく陽を置き、鱗は影斗の肩へと飛んでいく。
「ここに[木蔦]と…烈が?」
「先ほど入っていったばかりだそうです」
「…」
鱗の返答を聞いた影斗は、一瞬ちらりと蒼矢へ視線をやり、何事も無かったように前へ向き直した。
蒼矢が小首を傾げる。
「…? なんですか?」
「…いや、なんでも」
「つまり、火炎のセイバーが"本命"ってことですよ」
はぐらかそうとした影斗の横から、鱗が蒼矢へ答える。
要領を得ない彼へ、鱗は淡々と続けた。
「あんたを含めて、今まで[奴]は必ず搾取対象と外で会ってた。ラブホとか、公共トイレとか、そのまま野外とか。…自分の住まうところへ連れ込んできたのは、これが初めてですね」
「……!」
「その辺にしとけ、鱗」
意味を理解して言葉を失う蒼矢を見、影斗は鱗を軽くたしなめる。
ついで、会話を注意深く聞く葉月へ振り向いた。
「烈が『セイバー』だとは割れてねぇ。一旦このままでいくから、『転異空間』で余計なことは口走るなよ。陽も」
「…了解」
「よくわかんねぇけど、了解ー」
そうしてセイバーたちの意思統制が取れた時、彼らが各々携帯する起動装置が発光し始めた。
「っ…!」
鉱石はそれぞれのパーソナルカラーで光り、蒼矢はみずからの青く輝く鉱石へ目を落とし、息を飲む。
なんとなく状況を理解し始めていた葉月と陽も、そのモーションを受け止め、緊張感を表出していた。
「…行くぞ」
そう小さく呟くと、影斗は胸元から黒い鉱石を抜き出し、強く握った。
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