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転送された『転異空間』は、やはり深緑の地と乳白の宙とで二分され、どこまで見渡しても何も無い光景が広がっていた。
戦闘スーツに身を包んだセイバー4人は、無音の空間へ神経を研ぎ澄ませ、警戒を強める。
「――どこまでも煩わしい奴らだな、まったく」
と、蒼矢が視線を向けていた方角で、突如地が盛りあがり、生え出た数本の蔦が束になって絡み合い、人型を形成し始めた。
凹凸に色味が加わり、外見を浮き出させた侵略者[木蔦]は、装具を手に臨戦態勢に入るセイバーズを鬱陶しそうに見やっていた。
「これから獲物を美味しく頂いてやろうというところだったのに、空気の読めん奴らよ。…まぁ、こういうルートも可能性として考えてはいたけどな」
「お前が連れてた獲物をどこへやった? 一緒に転送されたはずだろ」
影斗が真っ向から問い質すと、[木蔦]は可笑しそうに口角をにやつかせる。
「なるほど。やはり俺の動きはあらかた探られていたようだ。あの半端者とどう契約を交わしたか知らないが、後手に回らざるを得ないお前たちにしては、最善の策を取れたと褒めてやってもいい。どうあっても俺の優位性は変わらないからな」
そう言うと、[木蔦]は濡れたように束になって顔に垂れる黒い髪を振り上げる。
すると背後の地が大きく盛り上がり、網目状に絡む蔦で出来た大きな球体が現れた。
「……!!」
球体の内部には、首から下の上半身全てを蔦で覆われた烈が吊るされていた。
見える範囲に負傷している様子は無いが、頭を前に傾げて目は閉じ、意識を失っているようだった。
起動装置の発光モーションから察せた通り、やはり変身はしておらず、ジーンズを履いた腿が蔦から露出し、力無く宙に浮いて揺れている。
「…っ兄貴…!!」
陽がかろうじて口元だけで微かに震え声を漏らし、他面々も冷たい汗を滲ませる。
獲物を見せつけた[木蔦]は、セイバーたちの表情を満足気に眺めてから、再び球体の檻を地中へ沈めた。
「最期の観覧はここまでだ。こちらも長いことおあずけを喰らっていて空腹を覚え始めている。早いところ終わらせて貰うぞ」
「…!」
「別れが惜しいのなら、彼と共に[異界]へ送ってやっても構わん。俺の忠実な下僕として使ってやらないこともないぞ…セイバーを性奴隷にしてやれるなど、想像するだけで気分が高揚する」
「お前はとりあえず、その無駄話の多い口から破壊した方が良さそうだな」
内の興奮を露出させ、口を裂き気色の悪い笑顔を浮かべる[侵略者]へ、セイバーたちは鋭い視線を注ぎ、装具を構えた。
オニキスが[木蔦]へ毒を吐きつつ、脳内から指示を送る。
「いつも通り、俺とサルファーで奴に当たるぞ。アズライトは索敵に集中してろ」
「了解」
セイバーズの陣形が展開されていくのを見、[木蔦]も形態を変え、身体から蔦を生やし、両腕と上半身に絡め始めた。
戦闘が始まろうという最中、彼らからの死角を一匹の蝶が揺らめきながら降下し、地中へと姿を消した。
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