37人が本棚に入れています
本棚に追加
第20話_手荒いモーニングコール
[木蔦]を[侵略者]と知らずにその邪念に触れ、セイバーに変身せずに『転異空間』へ飛ばされた烈は、そのまま意識を失い、囚われの身となっていた。
蔦で縛られたうえに檻へ閉じ込められるという厳重な拘束下に置かれた彼は、地中へ沈められ、暗緑の淀んだ空間をゆっくりと漂っていた。
……
固く閉じられた瞼が、時折細かく動く。
烈の頭の中に浮かぶ真っ白な意識の中にひとつの黒い点が生まれ、少しずつ大きくなっていった。
「いつまで寝てるんですか? 脳筋ゴリラ」
…脳きn…? まさか俺のことか?
「あんたのことじゃなかったら、他に誰がいるんです? わざわざ起こしに来てあげてるんですから、さっさと目覚まして下さい」
形がわかるくらいの大きさになった黒い点は、小さな黒い蝶だった。
蝶は烈の目の高さで止まり、気だるげに高慢な口を利きながら翅を動かす。
何故だか覚醒を促してくる蝶を前に、烈は目を瞑ったまま思いを吐露し始めた。
…なんだか、起きたい気分じゃねぇんだ。
「あんたは今、『セイバーズ』が憎むべき[異界のもの]に捕らわれてるんですよ。このまま美味しく頂かれちゃってもいいんですか?」
…だとしても、起きたくない。
…目を覚ましたくない。
…これ以上、嫌な思いをしたくないんだ…
「ほんのここ1か月くらいで出会った仲の奴の言うことを信じちゃったんですか? お目出度い頭ですね」
…信じたわけじゃない。
…信じたくない。
「なら、当の本人に直接聞いてみればいいじゃないですか。それこそ十年単位で付き合ってきたんでしょ? ぽっと出の妖しいモーション送ってくる野郎よりはるかに信頼置けるはずです」
……
「聞く勇気が無いんでしょう? …爪の先程の辛さを味わっただけで打ちのめされて、これ以上傷つきたくなくて真実を知るのが怖くなって、現実逃避したい、逃げたいだなんて、とんだ意気地無しですね」
最初のコメントを投稿しよう!