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…そうだよ、俺は意気地無しだよ。考え無しでヘタレでポンコツで、どうしようもない奴なんだ。
…それでいいだろ?
「辛いのが自分だけだと思ってるんですか? あんたの辛さなんて、自力で解決出来ない悩みくらいなもんでしょうに。…あんたが毒牙にかからないように身代わりになって、文字通り辛い目に遭わされて、傷ついた人間がいるんです。あんたはずっと守られてた。…そんな風に、小さな悩みを抱えるだけで済まされてたんです」
…!
…それって…
「…察しの通りです。僕は清々しました、いい気味だって。でも…ちょっとだけ同情しちゃいました。そんな人間の苦労も知らずに、あんたはどうでもいいことでくよくよして弱みに付け込まれて、上辺の優しさに絆されて、自分から罠にかかっていくんですから。…救われないですよ、どっちも」
…
「このまま自暴自棄になって目覚めることを拒み続けたら、あんたを身を挺して守った人間の苦労が水の泡になる。…あんたを信頼する、あんたに想いを寄せる人間たちを、自分の手元から全て失うことになる。…そうなることに、一切の後悔が無いんですね?」
烈の身体がぴくりと揺れ、微かに眉が寄る。
顔の前を飛ぶ黒い蝶はふいにその姿を薄くし、人の形を成していく。
「未練があるんでしょう、だったら起きて下さい。…あんたは感謝するべきだ、想いを通わせられる可能性が残ってることに」
ぼんやりと現れた鱗は、可憐な面立ちを歪ませ、大きな黒い瞳で烈を鋭く睨みつけた。
「…僕にはその可能性が欠片も残されてない。…自分から可能性を捨てて想いを閉ざすなんて、僕は絶対許さない」
…わかった、起きるよ。
…まだ少し逃げてたい気分残ってるけど…失っちまったらそれを思い直すことも出来ねぇもんな。
…ありがとな、励ましに来てくれて。
「そんなつもりは微塵も無いです」
…でもお前のお蔭で、自分の中ではっきりさせたくないことに向き合う勇気が出てきた。
…あいつとも、きっとちゃんと向き合える気がする…
「…」
…お前に頼みがあるんだけど。俺のこと殴って起こしてくれねぇか?
…拳痛ぇかもしれないけど。
なにか記憶を思い出したのか、烈は目を閉じたまま、うっすらと笑みを浮かべた。
そんな彼の口元を見、鱗は片眉を上げ、蔑むように目を細める。
「元々そのつもりでした。あんたには貸しがありますから、お望み通り全力で殴ってあげますよ」
…? 貸しって何の話?
…そもそも、お前誰?
鱗のこめかみに、青筋が浮かぶ。
「……清々しい程のとぼけ野郎ですね。起きろ、間抜け!!」
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