37人が本棚に入れています
本棚に追加
第21話_器に巣食う悪意
「――これ以上『索敵』しても、時間を無駄に費やすだけだ。援護に回ります」
「…! 待て、蒼矢」
装具『水面』を目の前から下ろし、『索敵』姿勢を解いたアズライトは後発属性へ切り替え『氷柱』を呼び出し、暴風壁から前線へと歩を進めていく。
暴風を制御する葉月が、にわかにポジションを移動し始めた彼を制止しようと声を掛ける。
「中途半端に止めて、その判断は本当に合ってるのか?」
「わかりません。ただ、前線の人員を増やして戦況を優位に出来れば、融合している[異形]と[侵略者]を切り離すきっかけがつかめるのではと考えています。少なくとも融合形態を解かなければ、恐らく『索敵』は出来ない」
「確かにその可能性はある。でも、あくまで"可能性"だ。2対1で拮抗している現状で、融合を解き敵の数を増やして、その後どうするつもりなんだ? もしこれ以上悪化したら…!」
「…」
「君は既に手負いの上、属性も[木蔦]相手には不利なんだろう? 手数が増えたとしても、まともな援護が出来るとは思えない…出るべきタイミングを見誤るな」
エピドートに低く諭され、アズライトは歩を止め、装具をかき消す。
そして空になった掌を強く握りしめ、うつむきながら震え声を漏らした。
「でも…こうしている間にも、烈が…!」
「わかってる…焦る気持ちも十分理解出来る。でも、一旦冷静になるんだ。陽を捕られたままではこちらは下手に動けない…確実な打開策が見えないまま、今この戦況を変えるのは得策じゃない。もう少し耐えてくれ」
「そうだ、落ち着け。お前らしくもねぇ」
エピドートの説得に、頭上の影斗が加わった。
「こっちは既に次の作戦段階に入ってる。さっさとポジションに戻って、『索敵』続ける準備を整えとけ」
そう言い放つと、オニキスは収めかけていた紫黒の霧を一気に噴き出し、周囲に濃く厚く充満させた。
中心に立つ彼の輪郭が捉えられない程の毒霧を纏わせたオニキスは、装具『暗虚』を構え、前方の[侵略者]と、その前に吊るされる陽色のセイバーを見据えた。
[木蔦]の盾とされたサルファーは、自由の利かない身体から金色の瞳を光らせ、オニキスの闇色の瞳をまっすぐ見返していた。
「心の準備は出来てんな、少年」
「おう、いつでも来やがれ!!」
最初のコメントを投稿しよう!