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「……!」
攻撃手ふたりの思惑を悟り、蒼矢は息を飲む。
考えもつかなかった彼らの覚悟を前に、前線への介入が叶わず、己の役目も果たせない苦悩と焦燥に冷静を欠いていた感情が、少しずつその波を小さくしていく。
「…」
落ち着きを取り戻したアズライトは、先ほど葉月とした会話に僅かな引っ掛かりを覚え、今までの時系列を素早く洗い出す。
…[木蔦]の優先目的は、烈を[異界]へ送ることだ。俺たちがセイバーに変身して『転異空間』へ送られたことは、選択肢にあったとしても[奴]にとってはアクシデントだったはず…
…戦況が[奴]に有利なら、適当に[異形]に任せて戦闘放棄すればいい…自分だけ分離してさっさと烈を回収し、[異界]へ還れば済む話だ。
…何故そうしない?
アズライトは、前戦の最後を見届けたエピドートへ問いかける。
「…エピドート、前戦で『転異空間』が消滅した時、[木蔦]はそのまま離脱したんですか? それとも融合を解いて、自分だけ抜け出たんでしょうか」
「! …見てた限りだと、[異形]から融合を解いて、[侵略者]だけ『空間』から出ていったように感じた。その場に残った[異形]は抜け殻みたいに形を保てなくなってから消滅してたし、分離したことは間違いないと思う」
「抜け出た[侵略者]の体躯は確認出来ましたか?」
「いや、見てない。…そう言われれば、見てないな…。[異形]の表面から[侵略者]の姿が消えてただの蔦の塊になったし、その後すぐに『空間』が消滅し始めたから、自分だけ抜け出たんだと判断してしまったけど…形そのものは確認してない」
「……」
「…アズライト?」
それきり黙ってしまった様子を見、エピドートが怪訝な面持ちで見守る中、アズライトは立ち止まったまま一点を見つめ、瞳を細かく震わせながら、思考を巡らせる。
…前戦での様子だと、[異形]は[木蔦]が操ることを前提にしていて、独立性が無いのかもしれない。
…そして今回の戦況からは、[木蔦]自身も[異形]無しでは『転異空間』から抜け出ることは出来ても、俺たちと戦ったり烈を回収するための力を行使出来ないように思える。
…やはり、"共生"関係というよりも"寄生"に近く、おそらく[異形]は[侵略者]の道具に過ぎないんだろう。
…そして同時に、[侵略者]側も[異形]から独立して動けない。
…存在を維持することが出来ない…いや、気配が感じられなかったり、急所が特定出来ないことからも、最早実体が無いのかもしれない。
…仮にそうだとしたら、『現実世界』でのあの姿は何だったんだろうか。
…『現実世界』での[木蔦]は、[異形]を使役していた風ではあったけど、体躯は分離しているように見えた。
…[異形]に寄生してなかったとすると…[木蔦]のあの姿は、別の何かの体を借りてのものだった、ということになる。
「……!!」
そういう推論に及んだアズライトはひとり、背筋がぞくりと冷える心地を感じた。
…『転異空間』で[異形]の体躯を操っているように、『現実世界』では…ひとの身体を操っていた…!?
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