第21話_器に巣食う悪意

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(ロードナイト)は装具『紅蓮(グレン)』を呼び出すと、上空の[侵略者]を見据えた。 面構えを只の人から守護者(セイバー)へ変えていく彼の横顔を見ていた蒼矢(アズライト)は、ふと瞳を固まらせた。 「…!!」 一見無事に見える彼の姿に気を緩めかけた脳裏を、[木蔦]の仕掛けた"罠"のことが過る。 同じように影斗(オニキス)も、やや険しい面差しでロードナイトの動向を見守っていた。 …植えられた種は、どうなったんだ…? ロードナイトの視線の先に浮かんでいた[木蔦(ヘデラ)]は、口端をひきつらせ、冷や汗を垂らす。 「…"種"ごと燃やしきったか。よりによって『火炎の守護者』だったとはな…」 「!」 舌打ちと共に呟かれた台詞に、アズライトの双眸が見開かれる。 自分を拘束する蔦と檻を、『転異空間』の地表もろとも燃やし尽くしたロードナイトは、自身に植え付けられた"[異形]の種"ごと消し炭にしてしまっていたのだった。 「…阿呆みてぇな火力は伊達じゃねぇらしいな。野郎、気付いてねぇだろ」 「知らぬは本人だけですね…」 脳内でオニキスがぼやき、口元だけで噴き出した。 事情の解らない葉月(エピドート)が小首を傾げる中、アズライトが呼応し、やはり呆れた風に微笑った。 「…あいつらしいです」 顔貌を強張らせる[木蔦(ヘデラ)]とロードナイトは、上空と地上で睨み合う。 「…可能性は考慮すべきだったか。こんなことなら勿体ぶらずにさっさと[異界]へ送ってしまっておけば良かったな」 「俺も、己の脇の甘さに自分を殺してやりたい気分だ。…せめて記憶から抹消させてくれ」 「残念だが、俺は足掻きたい性質(たち)でね。生きながらえるためには、使えるものは何でも利用するつもりだよ」 [木蔦(ヘデラ)]は装具を構えるロードナイトを見下ろしながら、みずからの体躯の前に(サルファー)を吊るす。 「お前が俺に攻撃を当てる前にこいつが――」 そう言い切る前に[木蔦(ヘデラ)]の鼻先に到達したロードナイトは、両掌から特大の火球を生み、至近距離から投げ放った。 「な゛、あ゛あぁっ…!?」 体躯の中心に当たった火球はそのまま放射状に炎を散らし、瞬く間に燃え広がっていく。 火達磨になる[木蔦(ヘデラ)]を置き、ロードナイトは手放した紅蓮を呼び戻すと、サルファーを吊るしていた蔦の元を切断し、ついで身体へ向けて縦に振るって拘束を解く。 「動けるか?」 「問題無し!!」 自由になったサルファーはロードナイトへにやりと笑い、細剣の装具『閃光(センコウ)』を手に[木蔦(ヘデラ)]へと翻した。 「急所が見つからねぇなら、身体中切り刻めばいいよな?」 仕返しとばかりに二振りの細剣を光速で振るい、必死の形相で消火を試みるその体躯へ万遍無く、無数の剣戟を浴びせる。 「っ…!! 調子に乗るなよ、低級が…!!」 炎をなんとか収め、憤激した[木蔦(ヘデラ)]は飛び回るサルファーを眼を血走らせて追う。が、その視界は突如黒い霧で覆われ、気付いた頃には蔦の内部を巡る体液が干上がっていく感触を覚えていた。 「…ようやく本気モードか。低級(・・)相手に遊び過ぎたな」 粒子が見える程の濃い紫黒色の靄の向こうに、同じ紫黒の闇色の瞳が静かにこちらを見据える。 標的のサルファーとロードナイトはとうに退避していて、毒霧を噴出した影斗(オニキス)が、腐食し始める[木蔦(ヘデラ)]の正面に浮き、経過を見届けるように眺めていた。 「お前の最期は、それ(・・)か?」 「…~!!!」 その冷え切った挑発に、[木蔦(ヘデラ)]は怒髪天を突いた。
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