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ぽつぽつと語りながら、ふたりは髙城家前まで歩き着く。
玄関を開けながら、蒼矢は小さく呟いた。
「…もっと早くに気付いていれば、手遅れになってなかったかもしれない」
独り言のように聞こえた言葉に、烈は彼の背後から目を見張り、下足を履き替える足元へ視線を落としながら、同じように小さく漏らす。
「…気配も無く潜り込まれてたんじゃ、あっちから尻尾出さない限り探りようがねぇよ。未然に防ぐのは難しいだろ…俺たちは基本"待ち"の姿勢でいるしかねぇんだから」
「そうだな。でも、それだけじゃない…決して還って来れない犠牲も出してしまった」
「…!」
「『現実世界』を護る立場でありながら…目の前で[異界]送りにされていくのを、俺はただ眺めてただけだった。刺し違えてでも阻止しなきゃならなかったのに…何も出来なかった」
階段を上がってリビングへ入り、そう鬱々と懺悔を重ねる蒼矢の背中へ、烈は言葉を返し続ける。
「お前のせいだってんなら、そうさせた俺にだって責任がある。…[木蔦]に"俺"っていう弱みを握られてたお前だってある意味犠牲者だろ? お前の苦しさに気付けなくて、[奴]の邪念も察知出来ないまま騙された俺が責められるべきだ」
「…? お前は巻き込まれただけだ、何の責任が…」
眉を寄せながら振り返る蒼矢を、烈はじっと見据えていた。
「だったら、お前にも何も責められるところなんかねぇよ。…俺たちは選ばれてはいるけど、抱えてるもん全部まるごと護れるほど万能じゃない。見える範囲を、最大限の努力で護るしかないんじゃねぇか」
「…」
「…あんまり自分を追い詰めてやるなよ」
まっすぐ注がれる眼差しを受け止め、蒼矢は瞳を揺らし、床へ目を落とす。
「それに…俺は少なくとも、お前に守って貰えたと思ってる。もう少しで[異界]送りになるところだったんだから。本当に感謝してる…ありがとな」
「…」
「…俺が鈍いせいで…不甲斐無いせいで、お前を傷つけた。ずっと辛い目に遭わせちまってて、ごめんな…」
穏やかな声色で注がれる言葉に、蒼矢はうつむいたまま首を横に振った。
烈は蒼矢の腰へ両腕を回し、彼の身体を優しく包む。
引き寄せられた蒼矢は、包み込まれる心地良さと烈の匂いに目を細め、彼の胸に頬を摺り寄せた。
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