#11:愛情

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#11:愛情

 あの一件から、春人は優を巻き込みながら、少しずつクラスメイトとの中を取り持つようになった。優が気まずい思いをしない様に、春人は自分なりの気遣いをし、優が笑っていられるような雰囲気を作ろうとした。  そのお陰で、少しずつクラスメイトとも打ち解けられるようになった。多人数の前で話すのはまだ慣れなかったが、優が少し気疲れしている時はいつも楓雅がさり気なく声を掛けてくれた。そして、放課後になると、優と楓雅は一緒に音楽室へ行き、二人だけの演奏会をして、ストレスを発散させていた。 「楓雅君にはいつも助けられてるなぁ。いつもありがとね」 「朝比奈が気にする事無いですよ。朝比奈にはいつも笑っていて欲しいですから」 「楓雅君って本当に優しいよね。皆にも優しいし」 「好きな人に優しくするのは当たり前ですが?」 「ぇっと、……そうだよね」  優が振り返ると、楓雅は優しく微笑んでいた。優は急に顔が熱くなり、思わず両手で顔を隠した。その様子を見て、楓雅は小さく笑った。 「ふふっ、そういう反応は朝比奈らしくて可愛いですよ」 「からかわないでよ! そうやっていつも言ってさ」 「すみません、つい。そろそろ時間なので、帰りましょうか」  二人が音楽室から教室へ戻り、鞄を持って、下駄箱まで来ると、春人が壁にもたれ掛かって、待っていた。優が声を掛けようと思ったが、いつもと様子が違った。春人は漆黒のオーラを身に纏い、今まで見た事も無い不機嫌そうな顔をしていた。 「春人? 具合悪いの? ……なんか顔怖いよ」 「いや、別に悪かねぇよ。それより、俺はそいつと話がしたいんだ」 「楓雅君と?」 「ああ。悪いが、優は先に帰ってくれないか?」 「え、え?」 「そうですね。申し訳ありませんが、今日は朝比奈一人で帰ってくれませんか? 僕も小向井君と話したい事あるので」  ただならぬ空気を感じた優は二人に別れを告げると、先に一人で家へ帰った。二人は優が無事に帰ったのを見届けると、無言で屋上へ向かった。今日の屋上はいつもより風が強く、夕日が強く照り付けていた。 「それで、話って言うのは――?」 「お前はいつまで優のそばにいんだよ!」  楓雅が質問したと同時に、春人は楓雅に突然殴りかかった。しかし、楓雅は華麗に避け、瞬時に春人の腕を掴み、背中に回し、春人を動けなくさせた。 「君がきちんと朝比奈を管理できていないのが悪いんじゃないんですか?」 「いでででっ! 離せ!」  楓雅は溜め息をつくと、春人から手を離した。春人は肩を擦りながら、楓雅を睨みつけた。 「お前が優の事を狙ってんの位、見てりゃ分かんだよ!」 「朝比奈を狙って、何が悪いんですか?」 「俺の優に手出すんじゃねぇ。お前は優をおもちゃみてぇに見てんだろ!」 「随分と独占欲が強いんですね。いいですか? 朝比奈は皆のもの、君だけのものじゃない。皆に愛されて、より輝きを増す。幼馴染ならそれ位の事、分からないのですか?」 「それは確かにそうだが。……いや、そんな事はどうでもいい! 特にお前と優が仲良くしてるのが気に食わねぇ!」  楓雅は以前、優が嫌だと言っていた事がなんとなく理解出来、深い溜め息をついた。そして、春人にある提案をした。 「(低脳な)君に一応言いますが、僕は学園祭で朝比奈に歌をプレゼントして、告白する予定ですので」 「なんだと!」 「はぁ……、すぐ頭に血がのぼるのはどうにかならないんですか? 最後まで話を聞いて下さい」 「んだよ、早く言えよ」 「僕と朝比奈が付き合ったら、君にもその幸せをお裾分けしてあげましょう。実に喜ばしい事じゃないですか。朝比奈をシェア出来るんですよ」 「なんだよ、それ。意味分かんねぇ」 「それが嫌なら、君が先に告白すればいいじゃないですか。その代わり、学園祭より先に付き合うとかになったら、貴方も朝比奈も……そして、私も冷たくて、深くて、魚の餌になるような海の底にでも一緒に逝きましょうか。ふふっ」  楓雅の不敵な笑みを見て、春人は背筋がゾッとした。そして、楓雅はいつもの落ち着いた表情へ戻ると、にっこり笑って、春人の肩をポンと叩き、屋上を後にした。 「おいおい、マジかよ。俺が何しようが、優が傷ついちまうじゃねぇか」  春人はすぐさま優に電話をした。優は電話が鳴ったのに気付き、電話口に出た。電話口からは春人の荒げた声が聞こえたため、優は驚き、春人に落ち着くように言った。 「優! 大丈夫か!」 「ど、ど、どうしたの? とりあえず落ち着いてよ。なんでそんな慌ててんの?」 「……あ、いや、特に理由は無いんだけど、お前が心配になって」 「あはは、ありがとう。それで、楓雅君とは何話してたの?」 「……えっと、それは。ま、とりあえずお前が無事で良かった。じゃあな、また学校で」 「ちょ、ちょっと! ――あぁ、切れちゃった。本当になんだろ?」  一方的に切られた春人の電話に疑問を持ったが、あまり気にしないでおこうと優は思った。そして、その数分後、楓雅からメールが届いていた。 『今日はすみませんでした。帰り道は大丈夫でしたか? さっきまで小向井君と朝比奈の事を話していました。あまり話せなかったんですが、小向井君とは仲良く出来そうです。小向井君が朝比奈の事を大事にしているという事が分かって、安心しました。では、また学校で』 「……僕の話ってなんだろ? でも、楓雅君が春人と仲良く出来そうって言うなら安心した。二人とも性格が違うから、てっきり仲良くなれないかと思ったのに。ま、いっか」  優は嬉しくなって、鼻歌を歌いながら、帰宅した。そして、家に着くと、楽譜ファイルから自分で書いた楽譜を取り出し、二人の事を思いながら、ピアノを弾いた。
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