#3:半分

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#3:半分

 近所でも仲良しで礼儀正しいと評判になった二人は中学校も同じ学校へ通った。  しかし、ある日を境に、春人の態度が少し余所余所しくなった。いつものように春人の家へ遊びに来た優は何かを言いたそうな雰囲気である春人に問いただした。 「春人さ、最近なんだか様子がおかしいよ? 何か隠し事とかしてる?」 「いや、その…………」 「言いにくい事だったら、別に構わないよ。でも、余りにも余所余所しいというかさ。なんか気になっちゃって」 「あのな、驚かないで欲しいんだけど……。実はさ、俺、父ちゃんと海外へ行く事にしたんだ」 「えっ……、海外?」 「うん……。言わなきゃって思ってたんだけど、なかなか言うタイミングと勇気が無くて。……優?」  余りにも衝撃的だった。優は頭の中が真っ白になり、手に持っていたゲームのコントローラーを思わず落としてしまった。 (え、春人が……海外へ……行っちゃう?)  脳裏に春人との思い出が走馬灯のように駆け巡り、次第に涙が溢れてきて、頬を何度も濡らしていった。急に泣き出す優に春人は驚き、どうしていいか分からず、あたふたした。優は春人の服を鷲掴みして、震える声で春人に迫った。 「ド、ドッキリとかじゃないよね? えっ……、ずっと一緒にいるって言ったじゃん! 嘘だったの?」 「……ごめん」  春人は優を直視する事が出来ず、視線をそらし、黙った。  春人はそれ以上、何も言わなかった。優は諦め、服を掴んでいた手を緩め、袖で涙を拭きながら、自宅へ走って帰った。 (春人の馬鹿! 一緒にいてくれるって約束したじゃん!) (優、俺もお前とずっと一緒にいたいよ。だから、俺は強くなって帰ってくるから)  数日後、親から春人の海外へ行く日程を聞かされた。嘘じゃなかったんだ、と確信した優は何日も落ち込んで、食事も喉が通らず、いつもの活気を失った。  朝、学校へ行く時も春人が玄関で出迎えてくれていたが、優は親に言って、一緒に行くのをやめた。次第に、春人の出迎えは無くなり、学校でも避けるようになった。  ◆◇◆◇◆◇  そんな生活が続き、あっという間に、春人が海外へ出発する日が訪れた。  優は自室のベッドで蹲り、今までの思い出を振り返り、心を痛めていた。  優の母親はなかなか出てこない息子に対して、出てくるように、外から大きな声で叫んだ。優は何度も呼ぶ母親に対して、渋々起き上がり、玄関先まで降りてきた。  今日は朝から天気が悪く、雨がシトシトと降っており、差した透明のビニール傘に散った桜の花弁が舞い降り、雨が切なく打ち付ける。 「ほら、春人君が行っちゃうわよ。最後位はちゃんと挨拶しなさいよ。ほら」 「……んな事言われなくても、分かってるよ」  優は母親に背中を押され、春人の元へ行った。なんだか気まずく、上手く春人の顔を見る事が出来ず、俯き、傘で顔を隠した。春人はその姿を見て、苦笑いし、頭を掻いた。 「折角、見送ってもらうのに、雨だし、少しは空気呼んで欲しいよな」 「そうだね……」 「またいつか戻ってくるから、それまで元気でな。向こうに着いたら、手紙書くからさ」 「うん。春人も元気でね。……寂しいけど」 「そんな事言うなよ」  春人はぎこちない笑顔で、いつものように優しく優の頭を撫でた。優はずっと俯いたまま、肩を震わせ、春人の顔を見る事が出来なかった。 「あ、忘れるとこだった。これやるよ」 「……何?」  春人がゴソゴソとポケットから出してきた物は、シルバーを基調とした長四角形のプレートがついたペンダントだった。手渡されたペンダントのプレートをよく見ると、ローマ字で春人の名前と誕生日が刻まれ、下に二葉模様の切り抜きが施されていた。 「俺は、優の名前と誕生日が刻印されたペンダント。お前のと俺のをこうやって、合わせると四つ葉のクローバーになるんだ」 「これ……どうしたの?」 「安物だけど、お守りみたいな感じ。なんか上手い事言えないけどさ。これなら俺の事、忘れないだろ?」  春人が照れくさそうに頭を掻いていた。そして、ペンダントを優に着けてあげた。着け終わった後、春人が何か言ったような気がしたが、雨の音で良く聞こえなかった。優が聞き返そうとした時、春人の後ろで待っていたタクシーから春人の父親の声がした。 「春人、そろそろ出発の時間だぞ」 「分かった。今、行く! じゃあな、優」 「春人……!」  春人は父親に急かされ、タクシーに乗り込んだ。優は涙を拭いながら、春人が乗り込んだタクシーに駆け寄った。駆け寄る優の姿に気付いたのか、春人はタクシーの窓を開けた。 「春人、絶対に帰ってきてね! 約束だからね!」 「泣くなよ、こっちまで泣きそうになるだろ」 「嫌だよ……。寂しいよ……」 「いつになるか分からないけど、絶対に帰ってくるから、待っていてくれよ。ほら、タクシー出るから、離れな」  春人は優に優しく微笑んだ。タクシーが走り出すと、優は傘を放り出し、手を大きく振りながら、タクシーを追いかけるように走った。しかし、優の走る速さでは追いつくはずもなく、どんどん遠くへ見えなくなってしまった。  走るのをやめた優は春人がくれたペンダントを強く握り締め、空を見上げながら、佇んだ。涙が桜雨と混じり合い、頬を濡らしていった。
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