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#4:虚無
「優君、春人から手紙が来たわよ」
「本当に! 今回のはなんて書いてある? ポストカードも一緒?」
「優君は本当に春人からの手紙を楽しみにしてるわよね」
「そうかな? で、なんて書いてあるの?」
春人は約束通り、定期的に手紙を送ってきてくれた。春人の母親は手紙が届くと、わざわざ優の家まで来て、いち早く教えてくれた。優は春人から届いた手紙に目を輝かせ、ワクワクした。封筒はいつもパンパンで、前回の手紙の続きから書かれており、手紙と一緒に色んなポストカードが添えられていた。春人の持ち前の明るさとボディランゲージを駆使しながら、様々な人と交流しているのが窺えた。
「楽しそうにしてるわね」
「本当に楽しそう。……まだ帰って来ないのかな」
「そうね。……私も帰って来て欲しいって思うけど、あの子が楽しそうにしてるのなら、待てるかしら」
「そっか……。僕も何か楽しいと思える事をやりたいな」
優は春人の帰りを今か今かと待ちわびていたが、中学3年の冬を境に、手紙はぱったりと届かなくなった。
春人はきっと楽しく過ごしているのだろう。そして、きっと春人は僕のいない春人だけの道を歩み始めたのだろうと自分に言い聞かせた。
◆◇◆◇◆◇
優は寂しさを紛らわせるために、塾に通ったり、習い事であるピアノに没頭した。そして、県内で有名進学校と言われる櫻丘学園高等部に首席で合格し、入学した。
中学生の頃とは違い、周りの人達は垢抜けた感じだったり、お洒落を楽しんでいる人など、所謂、高校デビューを果たした人ばかりだった。同じ学校に入学した人はいたが、交友関係はなく、気が付いたら、優は一人ぼっちだった。
(皆、キラキラしてて羨ましい。僕なんて友達もいないし、勉強ばっかやってたからな)
教室には知らない人ばかりで、楽しそうに話す人達を羨んでいたが、人見知りが激しく、どう話しかければ良いのか分からなかった。黒板に書かれている座席に座り、外をぼんやりと眺めた。
首席で合格した事もあり、周りの生徒達は優を一目置くようになった。誰からも声をかけられず、優はいつも読書をしたり、中庭や屋上などの人の目がつかない場所で一人で過ごしている事が多かった。
優がいつものように中庭の渡り廊下を歩いていると、生徒指導の後藤先生が笑顔で立っていた。
「先生、そこに立たれると通れません」
「がははっ! 朝比奈はいつも一人だな。友達は作らんのか?」
「僕は別に友達を作る為に、学校に来てる訳じゃないので……失礼します」
優が後藤先生の横を小走りで駆け抜けようとすると、後藤先生は優の腕を掴み、離さなかった。咄嗟の事で、優は引き戻される感じがして、体がビクッとした。
「っ! な、なんですか。手を離してください」
「そんな怒んな。俺が友達の作り方を教えてやるよ。これでも生徒指導なんだぞ」
「そうですけど……。本当に友達いらないんで結構です」
「まぁ、そんな事言わずに、俺の話聞けよ」
優は渋々了承し、後藤先生の話を聞きながら、図書室へ向かった。相変わらず強引な人だと思いながら、適当に相槌を打った。図書室に着き、優はいつものようにカウンターを開けたり、前日分の返却本の処理を始めた。後藤先生は優の後ろでその様子を見ながら、壁に凭れていた。
「この図書室、来る生徒いんのか?」
「本のレベルが低すぎるし、面白くない本ばかりなので、本好きでも来ないと思いますよ」
「へー、本に詳しいんだな」
「一応、図書委員をしてますし、図書室に置かれている本には全部目を通しました」
「やっぱり、朝比奈は凄いんだな」
ブックカートに棚に戻す本を乗せ、優はカートを押しながら、所定の位置へ本を戻した。後ろから覗き込むように後藤先生がついてきた。後をついてくる後藤先生に嫌悪感があったが、何か言うとまた変な話が始まると思い、無視して、返却本を棚に戻す作業をした。そうこうしているうちに、あっという間に一番奥の棚までやって来た。
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