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 倉坂は漆間の隣に座り、寺島は色葉の隣に座った。ほんと、漆間の顔には巻き込まれたよなあ。綾部がお決まりの思い出話に浸り始める。倉坂が乗った。漆間はビールに口をつけて目をあさっての方向に向ける。彼らは会うたびに、漆間のせいで巻き込まれたけんかの話を延々とする傾向があるのを、話題にされている人物は知っていた。ジョッキを置き、家具屋ってどこの? 寺島に質問を飛ばす。 「カメラ」 「え、あのフランスの大手の?」目をみはる。「日本進出して最近、一気に勢力伸ばしている家具屋だよね。東京ってことは、本店とか?」  得意げに胸を張ってうなずいたと思えば、あ、ちょっと飲みもの取ってくる。断りをいれて立ち上がると、奥の席へと消える。グラスを手に取っていた。真横と前方では思い出話に火がつき始め、二人だけの世界になっている。 「色葉は今」  何してるの? と続く予定だった言葉は、相手の顔を見るなり止まった。名を呼ぶ。間があってからはっとしたように、漆間を見返す。「あ、ごめん。何か言ったか?」  いや、なんでもないよ、と顔の前で手を横に振る。ジョッキを手にし、ビールを飲む。視線は色葉に向いていた。色葉はビールではなかった。グラスに入っていることと透き通るような濃い茶色からして、ウーロン茶だろう。  寺島が戻ってきた。「でも、家は新宿じゃないから」突然話題が一つ前に戻される。手にしているグラスの中身は、オレンジ色をしている。 「あっちはいいの?」漆間が奥のグループを指す。「無理、人多すぎ」顔をしかめる。「それに最初っから飲んでるから、素面のやついないし」 「都市近郊?」 「二十三区内ではあるけど、地味なとこ。マンションではあるけど、高層じゃないし。五階しかないから」唇をとがらせる。「ゆっきーは何してるわけ?」 「高校教師だよ。国語の」 「雪乃が高校教師かあ」色葉がしみじみとつぶやく。コップを覆うように縁に指先を添えて、液面を眺めている。「教える前から生徒に怖がられてそうだな」 「目つき悪いもんねえ」思い出話に花を咲かせていたはずの倉坂が、話に混ざり込んでくる。それ、わりと冗談にならないんだけどな。漆間は苦々しく漏らす。話し方に成長のない女から顔をそむけて、片手を前に出した。  その後も何人かが遅れて現れた。学年全体だと二百四十人いるはずだが、全員はそろっていない。一次会は三時間続いたが、それでも時刻は二十一時だった。二次会はカラオケになる。漆間と綾部を含め多くが離脱した。
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