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 チャイムが鳴った。六限の終わりを告げるチャイムだ。 「ねね、今日暇だよね」  倉坂は、隣で机につっ伏している背中を揺する。おっくうそうに顔が上がった。漆間は片目をこすりながら、手を横に払って邪険にする。顎で後ろの席を指した。色葉の席だ。倉坂は頬を膨らませる。「レオンは部活があるもん、忙しいじゃん」 「だからって、俺を誘うのもどうなの」寝起きのせいか、低くて力が入っていない。「美人でも彼氏持ちのお誘いは、ろくなことが起きないからね」最後まで声は続かなかった。またつっ伏す。 「んえー、いじわる。ねえ、レオンー」 「あー、うんまあ、暇って言われれば暇だけどさ。どうせ部活行ってないし」 「珍しいな、優等生」漆間が起き上がって振り返る。「また何か面倒なことにでも巻き込まれてるのか?」  ちょっと、なんでレオンのときはばって行くのに、私のときは塩なのお。倉坂がわめきたてるが、文句の矛先にいる当人は見向きもしない。  色葉は苦笑した。 「面倒ごとっていうか、まあ前ほどのことにはならないと思うぜ」  色葉は去年、インテリ派不良グループに不可抗力で入ってしまい、抜け出せなくなって困っていた。同時期に漆間は、何度断っても彼らに勧誘されて困っていた。そこで色葉を自分の側につけ、グループに賭けを持ちかけた。二人が勝ったら二度と漆間に声をかけないこと。色葉の脱退を許可すること、負けたら二人には「それなりの制裁」が加えられることを条件に。見事勝利して事態を丸く収めている。 「小さなことでも甘く見ない方がいい。何せこんな学校だからね」漆間は教室内を見渡す。秀栄高校二年二組は、本日もどんちゃん騒ぎだ。教壇の方では互いに睨み合って立っている男たちがいると思えば、堂々とスマートフォンのゲームをして遊んでいる集団、なんだかきわどいことをしている男女、紙飛行機を窓の外へ飛ばしている女子。一機が漆間の机上に乗った。 「ゆっきー、ごめん、こっち飛ばして」  手を上げていたのは寺島だった。隣には林藤もいる。  倉坂が横取りして飛ばし返す。しかし大幅に左に逸れた。イヤフォンで音楽を聴いていた、宇津美のこめかみにヒットする。片耳のイヤフォンを外し、紙飛行機を拾って投げてきた主を探す。 「あ、宇津美、投げたのは舞だけど、それは私のだから返してくれない?」  宇津美は寺島に飛行機を投げ返してから、倉坂を見る。お前、あとで犯すから覚えとけよ。彼が言うと冗談とは受け取りにくいことを言って、イヤフォンを耳に差し直す。倉坂があからさまに顔をゆがめた。
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