じいちゃんの形見分け

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(『古道具・篭屋』って……、もしかして、ここ?)  祖父の手紙を確認した後、朔太郎はもう一度目の前の建物を見上げた。  下町の建てこんだ路地にある篭屋は、店というよりは「限りなくゴミ屋敷に近いあばら家」だった。通路ギリギリにせり出した陳列台には、雨ざらしのような状態で古い陶器や置物がごちゃごちゃと並べられている。こんなにガラクタを積み上げていたら苦情のひとつも来そうなものだが、三月の日曜日の昼下がり、辺りは静かで、道行く人は特に気にする様子もなく通り過ぎていく。正面入り口の硝子戸は開いていて、扉脇の柱には『営業中』という薄汚れた札がかかっていた。  こんな怪しげな店に来ることになったのは、昨年亡くなった祖父の手紙がきっかけだった。子供の頃に数えるほどしか会ったことのない祖父が自分に手紙を遺していたこと自体驚きだったが、貰った手紙を読むうちに、忘れていた古い記憶がよみがえってきた。
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