じいちゃんの形見分け

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「おまえに、形見分けをしようと思う」  それはまだ朔太郎が小学生だった頃のことだ。珍しく父の実家に居合わせた祖父に、思いもよらない話を持ちかけられた。  その時、朔太郎は親戚宅の庭でクロという犬を撫でていた。そこにふらりとやってきた祖父は、ちぎれんばかりに尻尾を振るクロを眺めながら「犬が好きなのか?」と尋ねてくる。「うちでは犬を飼えないから、今のうちにいっぱい触っておくんだ」と答えると、なぜか突然『形見分け』の話を切り出されたのだ。 「カタミワケ?」 「人が死んだら、その人の持ち物を縁のある人に分けることがある。それを形見分けという」 「……それって、じいちゃんが死んだら、僕に何かをくれるってこと?」 「ああ。できれば受け取って欲しいんだが、どうだ?」  死んだ人の物を貰うなんて、ちょっと怖い。子供心にそう思った朔太郎は「わかんない。受け取れないものだってあるだろうし」と曖昧に答えた。すると祖父は「なるほど、確かに」と言い、その大きな手で朔太郎の頭をがしがしと撫でた。 「おまえの都合もあるだろうし、その時が来たら、受け取るかどうか自分で判断してくれないか」 「それって、嫌なら受け取らなくてもいいってこと?」 「ああ」  最後にぼさぼさになった頭にポンと手を置くと、祖父は満足げに立ち上がった。 「だが、俺の勘では、おまえはきっと気に入るんじゃないかと思うぞ」
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