先輩、勇ましい女の子は好きですか?

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 ちょっとは本を読みなさい、と言われ続けて十六年。  文字だらけの本なんて、夏休みの読書感想文をやっつける時だけでおなかいっぱい。せっせとページをめくるのは、もっぱらマンガ。  そんな私が図書委員とは。くじ引きの神様ってセンスないよね。  新入生が高校にもなじみ始めた四月中旬。クラスで委員会活動の役決めがあった。  他のクラスがどういう決め方をしたのかは知らない。でも、いかにも本を読んでますって子が集まってる。 「ねえ、どうして図書委員になったの」  天使の輪がまぶしい黒髪女子にきいてみた。 「本が好きだからよ」  そんなの当たり前でしょ、と怪訝な顔でひんやり答えてくれた。  あー、やっぱりそうか。  て、そうだよね。普通そうするよね。生徒の自主性を重んじるよね。  だのにうちのクラスなんて、オール運まかせのくじ引きだもん。 「思わぬ役目をするのも勉強のうちです。なにが幸いするか、人生わからないものです」  と、仙人みたいな担任は言った。まっ白な髪を肩までのばした古典の先生。イメージがぴったりすぎて笑っちゃう。  そりゃあ塞翁が馬ってのは習ったよ。でもなあ。こちとら高一のうら若き乙女。悟りの境地にはほど遠いんですよ。  自分があまりに場違いだからか、頭の中で文句の嵐が吹き荒れる。  清楚な司書の先生が「委員長」と手まねきをした。前に出る詰め襟男子を見て、嵐はピタリと止まった。  カッコイイというわけではなかった。失礼ながら、見た目はパッとしない。でもなんだかほんわかしてて、妹をかわいがってくれるお兄ちゃんって感じ。 「三年二組の渡辺です。一年の時からずっと図書委員でした。今年は委員長をさせていただきます」  トットット。胸が小刻みに音をたてる。なに、この感覚。試合前の緊張とは違う。  集まった図書委員を見回しながら説明する委員長の目と、凝視する私の目がぶつかった。  耳がひと息に熱くなった。  いくら恋愛とは遠い世界に住んでいる私でもわかる。  こ、これは、ひと目惚れだ。  ほんと仙人先生の言う通り。人生ってなにが起こるかわからない。 「今から図書室を案内します」  迷路の壁みたいな棚には、小説に図鑑、釣りや将棋などの趣味の本、日本史や科学などのお勉強チックな本がぎっちりと詰まっていた。かと思えば、映画の雑誌なんかもある。  それを一つ一つ紹介してくれる委員長の声の甘いこと。胸にじんわりしみる。  案内が終わって図書委員の仕事についてひと言。 「貸し出しの手続きは、当番になった時に説明します。昼休みや放課後に時間があれば手伝ってください」  あら、当番って強制じゃないんだ。えー、それじゃ、やる気のない子はさぼり放題だよね。誰もこなかったら委員長困るだろうな。
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