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そう言いながらも、彼女は私に握らせたカッターナイフを自分の喉に当てる。
「殺さなくていいよ。そのかわり、痕をつけて。一生消えない傷痕を」
彼女の言葉に手が震える。
刃先は喉元の皮膚に触れていた。
それから先はよく覚えていない。
結論から言うと、彼女を傷つけずに逃げ出すことに成功した。
だけど、それは私達の友情の終わりを意味していた。
ううん、きっと、もう既に手遅れだった。
学校卒業まで避けるように逃げ続け、彼女と話をすることはなかった。
いつか思い出になる――そう思っていたのに。
卒業式のあと、彼女は自殺した。
遺書はなかった。
葬儀は家族のみで行われ、友人たちは別れの言葉もかけられなかったらしい。
あの時、逃げていなければ――そんな思いが私を支配し、忌々しい記憶に鍵をかけ閉じ込めた。
あれから15年が経ち、33歳になった。
そして、明日、私は結婚する。
――この気持ちに区切りをつけなくては、相手に失礼だ。
これは、彼女に対する最後の謝罪。
「今までごめんね。ありがとう、私も大好きだったよ。さよなら、もうひとりの私」
新たな門出に向けて、私は歩きだす。
たとえどんな困難な道のりになったとしても、もうひとりじゃないのだから。
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