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「本物の制服も着れたしね」
千晶が嬉しそうに声を弾ませて、プリーツスカートの裾を摘んで持ち上げた。
「そうか、そうだな。俺もこれで二度目だ」
遠い記憶を遡るように直哉が目を細めた。そんな直哉を千晶が訝しげに見つめる。
「え、スカートを?」
「つっこまんからな」
「一度目は元いた世界だ。今はもう無い」
「あー……ごめん」
「気にするな、そうさせない為に俺は並行世界を巡り、そして千晶の世界も救った」
「私たちで、でしょ?」
悪戯な笑みを浮かべる千晶を見て直哉も微かに笑う。
「そうだな」
「この世界も無事救えたしねー」
千秋が大きく伸びをし、海猫の賑やかな鳴き声に誘われて後ろの海を振り返る。
昨日まで滅亡の危機に晒されていた世界。
今は眩しいくらい生命に溢れた世界が広がっている。
戦闘の無惨な爪痕、大地の負った多大なる傷は自然、人工物問わず見えざる大きな力で修復され始めていた。
「さっきの質問」
「ん?」
「今と違う環境だったらって話だ」
「幾十の世界を巡る中でお前だけだった。連れて行けと啖呵を切ってきたのは」
「だからな千晶、俺はお前がいて今最高に楽しい」
直哉が千晶を見つめながら、包み込むように優しく微笑む。
「な――」
「ちょっと! 今この状況で言うのズルくない?!」
不意打ちを喰らって千晶は耳まで赤くなるほど赤面していた。明らかに動揺している。
「ほら行くぞ。今度は銃担いだまま跳ぶなよ」
方や直哉は涼しげな顔でゲートに向かって歩き出していた。
恥ずかしがっているのが自分だけなのが癪なのか、千晶はムキになって直哉を煽りだす。
「逸らしたー! 話逸らしたー!」
「逸らしてない」
「私に惚れてるならもっと優しくした方が好感度上がるよ?」
「寝言は寝て言え」
煽りが全く響いていない様子の直哉が逆にそう言い放ち冷笑った。
「ひっど、今鼻で笑ったでしょ!」
「笑ってない」
「笑った!」
「笑ってない」
押し問答を打ち切るように直哉がゲートに入った。その姿が完全に見えなくなったのを見届けてから、それでも尚十分な間を置いて、千晶が呟く。
「私も。今最高に楽しい」
二人を飲み込んだゲートは、現れた時と同じように音もなく閉じると姿を消した。
穏やかに押し寄せる波の音が、二人を見送るようにいつまでも、いつまでも鳴り響いていた。
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