最後の私

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『何を考えているんだ!』  ホテルの一室で。  スマホ越しから、夫の声が響いた。  こんな時でも、スマホは通じるのだ。  たいしたものだな、と思った。  AIが自動でやっているのか、プロ意識を持った人が、出勤して仕事をしているのか。 『どうしてお袋を迎えに行かなかったんだ!』  私はスマホを放り出し、上等のワインを口に運んだ。  一流ホテルのラグジュアリーは、最高だ。  こんな状況だから、シーツの替えとかはやっていないみたいだけど、それでも電気は通っているし、空調も生きている。  受付カウンターは誰もいなくて、勝手に中に入って部屋のカードキイを抜き取ったけど、この「不法侵入」って罪状は、もうすぐ終わる世界の中では意味をなさない。  まあ、同じ穴のムジナさん達も何人かいるようで、このホテルにも、私以外にも何人か滞在している人達がいる。
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