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発情期
「はつじょう、き」
「今までこうなったことはないのか?」
訊ねる言葉にも、こくこくと頷いて応えるのがやっとだ。
「その年で最初の発情というのも本来なら遅い。元々不安定なのに、昨日のあれで当てられたか……」
ルズガルがそんな説明をしてくれるが、半分も頭に入っては来なかった。ただただ体が熱い。尻尾の付け根が、びびびと勝手に揺れるのを感じる。
「この辺りに俺以外のアルファがいるかどうかわからないが、万が一勘づかれたらまずい」
オメガがいるとわかれば、当然それは神判の花嫁と結びつけられてしまう。そうなれば、役人に連絡が行く。
しかし、今ミュゼの頭を占めているのは、そんな心配ではなかった。
「くる、し……」
体中の血液が、ぐらぐら煮立っている感じがした。経験の少ないミュゼは「苦しい」としか表現できないが、これが発情なのだろうか。
「どう、したら?」
そんなつもりは毛頭ないのに、ルズガルに助けを求める瞳は勝手に潤んでしまった。ルズガルは「……クソ!」と吐き捨てる。
「取り敢えず、匂いを収めないとまずい。手を貸す」
手を貸す。それがなにを意味するのかわからないまま、ミュゼはこくこくと頷いた。とにかくこのわけのわからない状態からルズガルが助けてくれる。その安心感が勝った。
ルズガルは寝台に乗り、ミュゼを背中側から抱きしめる。帯を解き、下半身を露出させる。ミュゼの可愛らしい花芯はもうそそり立っていて、蜜口からとくとくと先走りを湧き出させていた。
「触るぞ」
そんな断りさえももどかしい。ミュゼがこくこくと頷くのを見届けると、ルズガルはミュゼの花芯をそっと握った。
「ん……っ!」
握りやすいように、大きく足を開かされている。とんでもなく恥ずかしい格好だと思うのに、体中に渦巻くこの激しい熱をどうにかして欲しいという気持ちのほうが強かった。ルズガルが筒状にした掌を上下させるたび、尻尾も左右に揺れて、ぱたん、ぱたんとシーツを叩く。
ルズガルの手が、先端をやさしく撫でる。あふれ出た蜜を絡めて、裏側のささやかな筋を親指の腹でくすぐる。そんなわずかな箇所がどうしてそんなに、と思うほどの強い快楽が襲って来て、ミュゼはルズガルの腕にぎゅっとすがりついた。
「んっ、んっ、んっ――」
ルズガルの手の動きは徐々に強くなり、やがてミュゼはその掌の中に精を放つ。
昨夜のように、倦怠が訪れる――と思ったのに、そうはならなかった。まだ体には燃えるような熱が居座っている。ミュゼは快感で重くなったまぶたを持ち上げた。蜜を吐き出した昂ぶりはくったりしているのに、尻尾はまだ物欲しげに左右に揺れている。体の中が熱い炉にでもなってしまったかのように、欲望が渦巻いている。
「ど、どして……」
昨日まで性的快楽など知らなかった体は、完全にミュゼ自身の制御を離れてしまっていた。他に頼れる者もなく、ルズガルを見上げると、ルズガルはふい、と顔を背けた。
――あ。
困ってる。
嫌われた。
そうだこの人は〈神判の花嫁〉なんて古いしきたりだと思っていて、なくしたいと思ってるんだから。
もちろんミュゼだってそれで構わなかったはずなのに、このときはどうしてか顔を背けられたことがひどくショックだった。
「……出しただけでは収まらないなら、試すべきことが、あるには、ある」
しかしルズガルは、しばらくしてそうひねり出すように告げた。顔を背けたのは、不快だからだったわけではないようだ。
「ためすべきこと」
なんのことかわからないが、それでこの淫らな体が制御できるようになるのなら、ぜひやって欲しい。
「お、お願いします……!」
ミュゼは哀願するように絞り出した。ルズガルは「発情を収めるため、やむなく、だから」と念押しするように告げると、ミュゼをあらためて胸に抱え込み直した。開いた自身の足に、ミュゼの膝裏を乗せさせ――あられもなく露わになったミュゼの秘所に、つぷ、と指を差し入れた。
「あ……!?」
う、うそ。
そんなところに、――
動揺しているのは心だけで、体はとっくにそこからも蜜を溢れさせていたことに、ミュゼはこのとき初めて気がついた。
そこは何かを入れるようなところじゃないはずなのに、生き物のように蠕動して、ルズガルの指を飲み込む。蠕動する度、ルズガルの指の節々を感じて、ほんとうにそんなものが入っているのだと意識させられた。
「きついか?」
「わ、わか、わかんない……です」
この、苦しいような、切ないような、それでいて気持ちいいような感覚を、ミュゼは言葉にすることができない。
「よくもないが、痛くはない?」
厳密に言うとそれも言葉にしたいものとは違っていたが、ミュゼはこくこくと頷いた。とにかく、なんでもいいから早くこの状況から解放されたい。
「動かすぞ」
囁きが首筋に触れ、ルズガルの指がゆっくりと蠢き始めた。出し入れをくり返しながら、ミュゼのとろける肉壁の内部に、探るように触れていく。やがてルズガルの指の形をはっきり感じるようになる。
「く……んん、くふ……っ」
ミュゼは声をかみ殺してその行為を必死で受容れていたが、ルズガルの指がある一点をかすめたとき、それもかなわなくなった。
「あ! ――」
鋭く高い声が鼻から抜け、ミュゼは思わず口と鼻を両手で押さえる。
「ここか?」
とルズガルが囁いた。
なにが「ここ」なのかわからないまま、ぐっと押される。大波のような快感が、全身をさらった。
「ああ……っ!」
悲鳴のような喘ぎ声を、今度は抑える暇もなかった。ルズガルの胸の中でミュゼの背は大きくしなる。ルズガルは離れようとするミュゼの肩口を顎で押さえつけると、片足の膝裏に手をさしいれて、さらに大きく開かせた。後孔に入れた指を二本に増やし、さきほど見つけた快感の釦を巧みに押しながら、出し入れをくり返す。
「あっ、やっ、やっ、やだあ……」
やだ、と言いながら、自分の隘路がきゅうきゅうとルズガルの指を喰い締めてしまっているのを感じる。
蜜は今やあふれて留まるところを知らず、くちゅくちゅという淫らに粘った水音が、部屋中を満たしていた。猫の耳は人間のときのそれよりも感度がいいらしく、自分のあられもない喘ぎさえ拾ってしまう。骨の髄まで性感帯になってしまったようだった。
「んん、ん、んっ」
どろどろにほぐされて、体が弛緩していく。見上げると、まぶたを伏せたルズガルの頬もまた上気していた。一方的に施して貰っているのに、彼もまた興奮しているのだと思うと、不思議だった。
同時に、言いようのない感情が胸を締めつける。
精を放った花芯はくったりしているのに、別のところから大波が押し寄せるような感覚があった。大波でないのなら、岩漿だ。自分の中にそんなものが存在していることを今の今まで知らなかった。
「あ、ああ、ああ――!」
岩漿が地を裂き、あふれ出す。ミュゼは、生まれて初めて中で達した。
汗にまみれた体は、快感の余波でひくひく痙攣する。
「ん……」
痙攣が収まると同時に、耳と尾が消えていく。体を支配していた淫らな熱も引いていき、
引き換えにミュゼはすうっと眠りに落ちた。
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