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「生まれながらの存在、と明言するのが決まりだが、君と私の仲だ。ここは正直に言おう」 「どんな仲だよ」    魔王はローブを脱ぎ、帯を緩め、ゴソゴソと服をたくし上げた。 「代々魔王に仕える一族によって、選ばれし者が魔王となる。つまり、こうだ」  腹部全体に魔法陣が描かれている。勇者は魔王の腹をまじまじと見つめ、生唾を飲んだ。 「うへぇ。痛そうだな」 「痛くはない」 「いや、これ、描いたときだよ」 「はるか昔のことで、全く覚えていないな」 「なんで、あんたがこう(・・)なったわけ?」 「さぁ、どうだったか。……そうだな、罪人か何かだったんじゃないかな……」 「もとは人間だったってことかよ……。罰、なのか?」  魔王は(くう)を見上げた。    日ごろから記憶というものがあやふやで、あまり物事を心にも留めておくことができなかった。今、目に映ることがすべてで、体に染みついた魔王の性に従ってしかいられない。当然、昔のことなど、こうして言われるまで思い返したことも無かった。   「いや、罪人ではない。子供だった気がするな——」  目をとじて、記憶の深いところまで探っていくと、活気あふれた町が見える。目線が低く、道行く人々を見上げて歩いた。  沢山の荷物を背負い、色々な場所を行き来する、荷運びをしていたような気がした。  しかし、大半は苦痛の中にいて時間の経過も分からない。気の遠くなるほど長い時間をただただ漂っていた。   「……だが、暗闇から目覚めたら、魔王だった」 「そうか。聞いておいてなんだが、あんた、きっとろく(・・)な目に遭ってないぜ。忘れちまってて幸いだったな」
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