16人が本棚に入れています
本棚に追加
「生まれながらの存在、と明言するのが決まりだが、君と私の仲だ。ここは正直に言おう」
「どんな仲だよ」
魔王はローブを脱ぎ、帯を緩め、ゴソゴソと服をたくし上げた。
「代々魔王に仕える一族によって、選ばれし者が魔王となる。つまり、こうだ」
腹部全体に魔法陣が描かれている。勇者は魔王の腹をまじまじと見つめ、生唾を飲んだ。
「うへぇ。痛そうだな」
「痛くはない」
「いや、これ、描いたときだよ」
「はるか昔のことで、全く覚えていないな」
「なんで、あんたがこうなったわけ?」
「さぁ、どうだったか。……そうだな、罪人か何かだったんじゃないかな……」
「もとは人間だったってことかよ……。罰、なのか?」
魔王は空を見上げた。
日ごろから記憶というものがあやふやで、あまり物事を心にも留めておくことができなかった。今、目に映ることがすべてで、体に染みついた魔王の性に従ってしかいられない。当然、昔のことなど、こうして言われるまで思い返したことも無かった。
「いや、罪人ではない。子供だった気がするな——」
目をとじて、記憶の深いところまで探っていくと、活気あふれた町が見える。目線が低く、道行く人々を見上げて歩いた。
沢山の荷物を背負い、色々な場所を行き来する、荷運びをしていたような気がした。
しかし、大半は苦痛の中にいて時間の経過も分からない。気の遠くなるほど長い時間をただただ漂っていた。
「……だが、暗闇から目覚めたら、魔王だった」
「そうか。聞いておいてなんだが、あんた、きっとろくな目に遭ってないぜ。忘れちまってて幸いだったな」
最初のコメントを投稿しよう!