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体に刻み込まれた魔法陣。人とは異なる風貌。それだけで、彼の身に異常なことが起こったことがわかる。暗闇、と一言でくくっていた中には苦痛もあっただろうに。すべて忘れていることが本当に幸いだと、勇者は心から思った。
元は人間だった。彼こそ世を憎んでいい。それなのに何故今、世界を救おうと、こうも熱心なのか——。
勇者が枯れ枝を投げ込むと、ぱちっと音をたてて焚火がはじけた。
「それでだ。魔王の業だが——」
魔王は尖った爪で腹に描かれた魔法陣の中央をなぞった。
「新月の夜、ここから魔の者が出てくる」
「へぇ。そういう仕組みになってるのか。それこそ、痛くないのかよ」
「……とても、痛い……」
「……なあ、おい。それはあんたの業じゃねぇ。それこそが人の業だ。分かってるのか? 元は人間だったんだろう? 自分をそんな風にしたやつらを救いたいなんて、どうかしてるぜ」
「私が消えない限り、この世は魔で溢れかえる。次の新月までに、止めなくてはならない」
「いやだね。まだ、この世がどうとか言ってるのかよ」
「……君にしかできないことだ」
「俺はそんなんじゃ動かねぇよ」
勇者の言葉に、魔王はがくりと膝を落とした。
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