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3.
魔王の城に近づくにつれ、荒廃はひどくなる。決戦を前にして、一番手こずるのが魔王城付近、本来は屈強な仲間とともに満身創痍にして辿り着く場所だ。
しかし、魔王と同行とあらば魔の者も襲ってはこない。勇者は散歩ついでのように敵の拠点へ乗り込むことになった。
城下街はひっそりしていた。すっかりと見渡せるほどで町とも言い難い。家屋が5,6軒に小さな教会のような建物が1軒、たったそれだけの、とても小さな集落だった。
町に差し掛かった途端、勇者は突然、剣を抜いた。そうだ、これは錆びついた剣だった。ざらりと不快な感触に抜いた本人も身震いした。
「待て、勇者よ。今は剣を抜く時ではない」
「ああ、こんなの役に立たないかもしれないな」
「いいや、静かに。彼らに気付かれてはいけない」
魔王は人差し指を唇に当て、勇者を制止した。
彼らというのは、おそらく、ここの住人。魔王の作り方を伝承しているという一族のことだろう。
「手下じゃないのかよ」
「もちろん、配下だ。しかし、私は城から出ることを禁じられている。見つかったら、追及を受ける」
「なぁ、そろそろ気付けよ。敵が誰なのか、俺はとっくに分かってるぜ」
はぁ、と、勇者は大きなため息をついた。
「あんたを倒してもまた誰かが奴らに選ばれる。次の魔王が生まれるんだろう? 俺は血族を残すつもりはないんだ。次の魔王まで責任は持てないぞ。根を絶たなければ、永遠にこの世界の魔王は救われないぜ?」
大きく息を吸い込み、勇者は大声を上げた。
「だから、ここをぶっ潰す!」
勇者は一番大きな建物、教会らしき場所めがけて走り出した。
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