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どうせ、鈍ら。切ることなど考えずに、手あたり次第に剣を振り回した。
石を積んだだけの塀は簡単に崩れ、簡素な木戸は木っ端みじんだ。生憎、中には誰もいない。再び外へ飛び出すと、騒ぎを聞きつけた住人が、集まってくるところだった。
人の姿を見とめると、途端に足がすくむ。逃げ隠れ、生きてきた勇者は魔の者一匹すら手にかけたことが無い。対峙しているのは人数にして、4,5人。大口をたたいてはみたものの、恐怖のあまり心臓はすでに破れそうだった。
1人が勇者の前に躍り出た。動きの速い男で、正面から易々と勇者の両腕を掴んできた。
無理だ。やはり、俺なんかには――。勇者は無力感に襲われ、抵抗など、とても話にならない。押さえつけられた腕から、あわや剣も落ちそうになる。
その時、魔王の姿が目に入った。
(――そうだ。あいつは俺が、救う!)
魔王を見た途端に、不思議と力がみなぎった。ぐっと握りしめると力が入る。
そのまま腕を振るうと、掴みかかっている男があっけなく横倒しになった。
腐っても勇者だ。救いたい者を前にすると、勇気が湧き上がる性質に窮地を救われた。
勇者は途端に腹が座る。すかさず勇者は倒れた男へ馬乗りになり、その胸に、刺さるはずのない錆びた剣を突き立てた。
すると剣の先から噴き出したのは鮮血ではなく光だ。
なんと、男は全身を光らせて霧散した。
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