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 全能神は人の世界に害悪を作った。  それが魔王と呼ばれる異界の門だ。魔王に施された魔法陣を通って、どこからかやってくる、魔の生き物は、世界を壊すために放たれた得体の知れぬものたちだ。  この敵から世界を守るため人は自ずと統制をとり、団結し、豊になっていった。  しかし、問題もある。人の力が及ばず、魔の者が増えすぎると世界は破壊されつくし、取り返しがつかなくなる。そこで、全能神は勇者と呼ばれる魔王の天敵も作った。  勇者は人々から救いを求められることで力を発揮するようにできている。人々の願いが強ければ強いほど、屈強な勇者になるというわけだ。  平和が長く続くと必ず人同士の争いが起ってしまう。これが人の性質だ。  人の世を存続させることが望みの全能神にとって、これは由々しき問題だった。やはり、人同士を争わせないためには、一点の敵が必要。くりかえし、魔王を作りだすことは、これらを考えて作った仕組みだった。 「今の世は少々荒れ過ぎました。勇者よ。お前が運命に従わず魔をのさばらせたせいです。今ならまだ間に合うかもしれません。魔王を倒すのです、勇者よ。戦いなさい。神から授かったその特別な力で」 「ああ、戦うよ」  勇者は目の前に立つ神の使者を切りつけた。また1人、光となった同胞をとらえようと、(くう)を掴んだ残りの神の使者が、金切り声を上げた。 「よくも! 勇者がこんなことして、どうなると思っている?」 「俺は人間だけど、敵を見誤っている気はしないね」 「全能神の逆鱗にふれますよ!」 「知らねぇ! 俺たちの運命を勝手に決めるな!」  口を噤んでいた魔王も、たまりかねて声を荒げる。 「そうだ。たとえ間違いを繰り返したとしても、人は自力でも立ち直って行ける!」  そして、いかにも魔王らしく腹部の魔法陣より禍々しい大剣を出現させた。 「もう、二度と魔王は作らせない。光となって天へと還り、全能神とやらに伝えるがいい」
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